第5話 小便器の男
東蒲田駅の男子便所から行列がはみ出していた。出て来る人はみなニヤニヤしながら自販機で水を買い、それを飲みながらまた、列の後ろに並んでいた。
我慢して行列に並んでいると、その行列が、一番奥の小便器のためのものだと分かった。俺は行列を離れ、別の小便器に向かった。そのとき、一番奥の小便器の中の男と目が合った。
男は、髪が薄く背広姿で眼鏡。汚い鞄を抱えて小便器に嵌り込んでいた。
行列の男たちは、男に向かっておしっこをしていたのだ。
俺がゾクリとすると、そいつはニヤニヤして「あなたにも見えるんですね」と言った。
トイレを出るとき、鏡の中の俺の顔はニヤニヤしていた。水を買って行列に並ぶ。
男におしっこをかけながら俺は「替われよ」と言った。男はニヤニヤしたまま立ち上がると、俺に鞄を押し付け、「くっせー」という声に送られて出て行った。俺はニヤニヤしながら鞄を抱え、小便器に体をにじり入れた。
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