第3話 電気の匂いの男

 太陽光発電の匂いはゴム臭い。マンガン乾電池の甘い匂いは嫌いじゃない。12Vの四角い電池は、ウニみたいな匂いがした。

 アルカリ電池は柑橘系で涎が出てしまうし、水銀電池はジントニック。エボルタはエネループよりサイダーの匂いが強い。

 低圧より高圧の方が雑味がない。変電所の横を通るときは脳に来るホルマリン臭に息を止める。電線から染み出る匂いは、安い墨汁の匂い。

 直流より交流の方が風味が強い。バッテリーはたいてい酢飯みたいで、指に染み付くのが困る。モバイルバッテリーが爆発する瞬間はイカ焼きの匂いでお腹が鳴る。でも爆発してしまえば魚の粗みたいに臭い。

 雷はやっぱりすごい。野生のものはやっぱり違う。シトラスミントの匂いがする。でも雨が降るとすぐに消えてしまうのが悲しい。

 静電気はラベンダーの香り。痛みと引き換えの快感。

 だけど一番好きなのは、人間の神経を伝わる電気の匂い。錆びた鉄の味わい。

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