第2話 布の男
シャーッ。という甲高い音が、多摩川のせせらぎと、四つ目垣を抜ける木枯しの音に交じった。静雄だった。彼は縁側で布を裂いていた。
「今度は手芸でも始めたのか?」
僕は必修課題を包んだ風呂敷を、垣根越しに振った。静雄はヘラヘラと笑って首を傾けた。門を潜り、枯れ芝を踏んで、静雄の前に立った。静雄は、Yシャツ姿で、端切れに腰まで埋もれていた。
「提出しないとヤバイぞ」
包みを渡すと、静雄はうれしそうに風呂敷を解き、中味を放り捨てると、「これはいい。これはいいよ」と、端を咥え、ビリビリと裂き始めた。
僕は寒気がした。
「それ、どうするんだ?」
僕は何気ない風を装って尋ねた。
静雄は手を停めた。その時、木枯しも、川のせせらぎも途絶えた。
「石が、うるさいんだ」
そしてまた、シャッー。という音が始まった。
帰りに、川原へ降りてみると、夥しい数の石が、色々の布で、ぐるぐる巻きにされていた。
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