最初の事件

半グレとクラスメイトの少女・黒川 さとみ

Side 藤崎 シノブ


勇者とは何だろうか。

魔王を討伐し、異世界を救った今でもシノブは考える事がある。

何となくだが永遠に自分が満足する答えは出せないだろうなとシノブは思う。

それでも自問自答してしまうのだ。


勇者とはなんなのか。

正しい勇者とはなんなのか。

自分は人様に誇れるような勇者だったのかと。


勇者の一つの在り方として困ってる人を助けられる人と言うのがある。


何を当たり前な事をと言う人もいるだろうが、現代社会で人助けをすると偽善者呼ばわりされ、酷い時は犯罪者呼ばわりされる。

人助けしないのではなく、できないのだ。


それでも手を差し伸べられる人がいたのなら、きっと素晴らしいこと何だろうなとシノブは思う。



=放課後・琴乃学園正門前=


帰宅部の生徒の流れに沿って藤崎 シノブも下校する。帰って遊ぶのではなく勉強である。


勉強し続けている内にふとシノブは将来の事を考えた。

自分は何になりたいかわからないが、一定の学力、知識は必要だと考える。

少なくともFラン大学に入って親に迷惑は掛けたくはないと思った。


それと出来るならアルバイトしたいとも思った。

金は多すぎても考え物だが少なすぎるのも考えものだ。


とにかくやりたい事、するべき事沢山ある。

高校の3年間は短く、残酷だ。

大人たちが口酸っぱく勉強しろと言うのも分る。


などと考えていた矢先、トラブルに遭遇する。


正門前で複数人でウチのクラスの女子生徒にナンパしている。

ナンパしている男たちはチャラく、壊滅的に頭が悪そうだ。九九の掛け算とかも怪しそうなレベルで。

ニヤニヤとスマホを構えてタバコや酒をやっている。

そばにある黒塗りのワゴン車も彼達の所有物だろうか。


教師はどうしていいか分からず遠巻きに見ているだけ。

学校、大学でチンピラのあしらい方など教えてくれる筈もないのでこの有様も無理からぬ事だ。


「さとみちゃんさぁ?  最近調子乗ってると思うんだよね」


と、危機的状況に陥っている女子生徒に対して同じ学校の女子生徒3人が何やら話かけている。


「私達との付き合いも悪いし、反抗的だし。だからちょっと痛い目みないとね」


などと傲慢な態度を隠そうともせず、女子生徒をチャラ男たちに差し出す。

どうやら彼女たちはクラスの女子をお仕置きのつもりでチャラ男たちに差し出したようだ。


(エグいことを)


 見ていて気分の良いものではない。

 周囲の生徒たちも「警察呼んだ方がいいんじゃ?」とか言ってるがこの様子だと誰も通報しないだろう。

 海外で日本の学生はどう思われているかしらないが、こう言う時は見て見ぬふりをし、正義感がある人間は馬鹿を見ると言ってしまっちゃう人間なのだ。

 酷い時は助けた人間をカッコつけだの偽善者呼ばわりである。

 

 シノブも以前はそう言う人間の一人だったのでそう言う心理はよく分かってしまう。


「なんだテメェ?」


 気がついた時にはシノブは女子生徒とチャラ男の間に割って入っていた。

 チャラ男の背格好は私服で眼前の男はタバコとアルコールが混じった臭いがする。

 今日は平日で私服姿で車で女を拐うのはよっぽど暇な人達なのだろう。

 

 対して後ろの女の子。

 長い黒髪で切れ長の瞳、近寄りがたい感じのする雰囲気を身に纏う。

 体つきも日本人離れしていて男子にモテそうな感じがする女の子。胸はとても大きく、軽く110cm以上はある。脚やヒップのボリュームの方は程よくだ。

 クラスメイトで黒川 さとみ。

 シノブとの接点はない。


「なんだ兄ちゃん? カッコつけてるつもりか?」


「それよりもいいんですか?」


「あん?」


「さっき警察呼んだんでそろそろ警察来ますよ?」


「テメェ!?」


 ハッタリだった。

 だがそれがまずかったのか殴りかかってくる。

 シノブから見てとてもスローな拳だ。

 パワーインフレが激しいバトルマンガのキャラが一般人の攻撃を直視するとこんな風にみえるのだろうかと感心して受け止める。


「あっ!?」


 そしてヤケになったのか出鱈目に殴りかかって来る。

 それを全部受け止めた。

 周囲も静かだ。

 

「な、なんなんだよ!? なんなんだよお前!?」


 息を切らして幽霊でもみるかのような表情でシノブをみる。

 とうの本人は「お前って言われましても……」と困り気味の様子だった。


「これならどうだ!?」


 そう言って他のチャラ男が鉄パイプを振り下ろしてくる。

 何時から日本はこんな治安が悪くなったのだろうかと考えつつシノブは自分の腕で受け止め――鉄パイプのほうが折れる。

 

「ひ、ひぃ!?」


「なんだこいつ!?」


 そう言い残してそそくさとチャラ男たちは慌てて退避していく。

 チャラ男たちをけしかけてきた女子たちも慌ててその場から逃げる。

 

「……助けてくれてありがとうと言いたいけど、あなた目をつけられたわよ」


「ははは、そうだね」


「そうだねって状況分かってるの? 相手は半グレ連中よ?」


 半グレ連中。

 ようは893ではない、犯罪組織の人間である。

 どの程度の規模かは分からないが、一般人が相手するには確かに荷が重い。 


「ともかく私バイトあるから」


「大丈夫? バイトまで付き添おうか?」


「あなた命惜しくないの? 噂じゃあいつら893と繋がって人も殺したこともあるのよ」


「うわ~まるで不良漫画のタチの悪いのみたいだ」


「まるでじゃなくてその物なの」


 そこまで言うとさとみは周囲を見渡して「ついてきて。遠いけどバイト先まで案内するから」と言う。

 

「バイト先は?」


「ちょっと遠いわよ。日本橋」

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RE:召喚勇者の現代帰還~それでも勇者は勇者としてあり続ける~ MrR @mrr

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