異世界帰還直後その2

 Side 藤崎 シノブ


 =早朝・自宅・シノブの部屋=


 異世界ではハードな日もあれば健康的に早寝早起きの時もあった。

 起きて元の世界に戻ったのが夢ではない事を確かめる。

 

(本当に元の世界に戻ったんだな――)


 そう思いつつ体を起こし、寝間着から着替えて学校へ行く準備。


(まだ時間があるし、頑張るか)


 机で予習、復習を始める。

 昔の自分だったらスマホでも開いて適当に時間を潰していたかもしれないが、今はそんな気は起きなかった。

 異世界に行って、人の生き死にや地獄を見て人生観が変わったせいかもしれない。 



 =朝・琴乃学園・教室=


(鑑定魔法がなかったら危なかった……)


 教室で自分の席に座り、ふうと一息つくシノブ。

 何が危なかったかと言うと異世界での生活が長かったせいでクラスや席を忘れかけていたのだ。

 それを考えると亮太郎は元の世界に戻って図書室で使うパソコンのパスワードを覚えていたりして凄いなと思った。


 ちなみに谷村 亮太郎と藤崎 シノブは同じクラスである。

 異世界に一緒に転移する前は特別そんなに深い関りはなかった。

 だけど今はクラスの目線とか評判とかそう言うの気にせず、二人で話し込んでいる。


「勉強の範囲大丈夫かい?」


 不安げに亮太郎が聞いてくる。

 大人びたした感じの立ち振る舞いをする彼は珍しいことに弱気な顔をしていた。


「そもそも自分達どこまで勉強してたんだっけって言う話ですよ」


「あ~そこからか~」


「はい……だから今日の科目に絞って勉強し直しました」


「暫くは勉強会かな?」

  

「ええ……」


 異世界に行って知力のパラメーターらしきものが向上して、物覚えもよくなってはいるのが幸いだろうか。

 だけど元の学力に戻るまで時間は掛かる。

 流石に小学生レベルではないが、中学生レベルですら危ういかもしれない。

 

分かっていたが、元の平和な暮らしも楽ではないとシノブは痛感した。



 =昼休み・琴乃学園・屋上=


 屋上で谷村 亮太郎と藤崎 シノブの二人はベンチに腰掛け、ハァとため息をついていた。

 二人ともそれぞれの母が作ったお弁当。

 そして昼休みそこそこ休んだら昼休み後のラスト2時間のためにテスト前の最後、勉強する勢いで教科書の予習復習をするつもりだった。

 

「普通の学生も大変ですね」

 

 と、一仕事終えたサラリーマンのような口調でシノブは亮太郎に言う。

 亮太郎は苦笑いしながら「同感」と返す。

 ある程度クラスの笑いものにされる覚悟はしていたがどうにかこうにか切り抜けた。

 

「しかし、自分達学生ってこんなに勉強に勉強を重ねてどうするんだって思う時がありますよね」


 そこまで言ってシノブは「あ、もちろん勉強をしたくないとかそう言うつもりで言ったワケじゃありませんよ?」と付け加える。


「言わんとしている事は分かる。だけど日本は学歴信仰は根強いからね。大企業の面接官が学歴、新卒の肩書きを優先するのは相応の理由があるのさ」


「だけど学歴だけでその人が仕事が出来るのかどうか判断できるんですかね? 言っちゃ悪いですけど求められる能力が違うと思いますけど」


「確かに仕事が出来るかどうか分からないよね。そもそも学歴でその人が有能かどうか分かるなら経済も政治の世界も苦労しないね」


 続けて亮太郎はこう言う。


「まあだからと言って総理大臣がFラン大学卒だったら皆不安に思うよね? 結局のところ学歴はそんなもんだよ」


 最後にこう付け足した。


「言ってしまえば自分の人生に箔をつけるためにやるもんさ」


「そうですか――」


 この会話はこれで止めておくことにするシノブ。

 何だか勉強する意欲が失ってきそうだからだ。

 異世界で教わったことの一つに、何でもかんでも知ればいい、答えを出せばいいと言うものではない、と言うものがある。

 答えは出さないと言うのもれっきとした一つの答えなのだから。


(まだ学校は二時間ある。急いで目を通さないと)


 弁当を食べるペースを速めるシノブ。

 まだ学校は二時間残っている。

 恥をかかない程度には勉強しないといけない。

 この分だと帰っても勉強だろうなと一人シノブは思う。

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