異世界帰還直後

 Side 藤崎 シノブ


 =放課後・大阪府・琴乃学園屋上=


 藤崎 シノブと谷村 亮太郎の二人は琴乃学園の屋上に来ていた。

 

「帰ってこれたのか?」


 屋上には幸いにして人の姿はなかった。

 いたらいたらで説明が面倒になるからだ。

 元の世界――なまじ異世界にいたせいか、空気の感じ方が変わっていた。

 何だかこう、どんよりしていると表現すればいいのか、そんな感じなのだ。

 傍にいた黒髪のボブカット気味な知的そうな少年――谷村 亮太郎が即座に行動を開始した。


「お互いスマホのバッテリーは切れてるだろう? 一先ず学校の図書室に行って情報収集しよう」


「ああ」


 その辺に人間に尋ねるのも不審に思われるし、この選択がベストだろうと思った。

 


 =放課後・体育館裏・食堂前=


 図書室のPCでパパッと今日の日付を検索。

 そして確認しおえて学校の人気のない場所へと移動する。

 そこでようやく亮太郎は「よかった~」とその場にへたり込んで泣き出した。


「ちょっと、谷村さん。なに泣いてるんですか――」


 そう言うシノブももらい泣きしそうになる。

 本当の意味で帰ってこれたのだ。

 元の世界に。

 そして戻れたのだ。

 ただの高校生に。


 お互いどれだけ泣いただろうか。

 誰かに見られてはいないだろうか。

 とにかく泣いて、泣いて、少し落ち着いた後、食堂裏に置いてある自販機から紙パックを購入する。

 幸いにして制服の財布は残ったままだった。

 谷村さんも同じく財布を持っていたようだ。


「いや~久しぶりの地球のコーヒーだね~」


 谷村さんも久しぶりの紙パックコーヒーを楽しんでいる。


「本当に戻ってこれたんですね」


 シノブも手にフルーツジュースの紙パックを飲みながら言う。

 今は放課後。

 学校に残っているのは部活動している人間ぐらいだ。

 野球部や陸上部、サッカー部、テニス部などが頑張っている。


「うん。戻ってこれたんだよ。帰還の喜びを味わいたいけど暫くは勉強だね」


「あ~はい」


 勉強と言われて少し憂鬱な気持ちになる。

 だが現代社会で生きると言うことは勉強と向き合う事であり、そのリスクを承知をこの選択をしたのだ。

 暫くは予習、復習と勤勉にならないといけない。


 だけどその前にやらないといけない事はある。


「それじゃ、家に帰るか」


 一足お先にと亮太郎が帰路につく。

 シノブも帰路へとついた。

 


 シノブの家は一軒家。

 そこで両親と妹とで一緒に暮らしている。

 緊張してしまう。

 世界の命運を懸けた魔王との決戦に挑む時よりも緊張しているかもしれない。


 玄関前で少し立ち止まり、意を決して玄関のドアノブを捻って入る。


 そして「ただいま」と言って律儀に靴を揃えて脱ぎ、スリッパに履き替える。


 母親の「おかえり」と言う言葉が聞こえてきて一瞬固まって、また泣きそうになったので急いで部屋に戻る。


 部屋は異世界に旅立ってから一日も経過してない状態なので元のままだ。

 本棚は知的そうな物はなく、漫画やゲームのパッケージ、ロボットアニメのプラモデル。

 今時の高校生はどうなのかシノブは分からないが、平凡に生きて来た高校生ってこんな感じではなかろうかとは思う。

 思わずベッドに飛び込む。

 

 (本当に、帰ってこれたんだ。元の世界に――)


 思う存分嬉し泣きをした。


 この後、母親の手作り料理でまた嬉し泣きしそうになることも付け加えておく。

 

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