第33話
↓(以下、モールス省略)
『あんたのこうはい ほどうきょう じこ ろくがつにしんだ』
『くわしく』
美羽が画面を覗き込んでいる姿が想像できてしばしためらう。すると、
『はあく』
把握、だろう。その後はモールス記号が面倒になったのか、普通の文字で返ってきた。
『ローカルニュースのアーカイブにあった。これがなにか?』
清水がパソコンかなにかで調べているとしたら、美羽は驚いていることだろう。あとで怒られるかもしれないが、どうせ怒られるならこのまま続けよう。
『石川美羽はあんたのこと、大好きだったんだ』
自分だけのものにしたくて、拉致監禁して閉じ込めてしまいたいと妄想していた。それほど清水に愛を求めていた。
『なぜ弓弦がそんなことを? 弓弦は石川美羽に片思いをしていたのか』
『違う違う。強いていえば友人だよ。ただ彼女の無念を知ってほしくて』
『だがもうこの世にはいないんだろう。きみが代弁してもしょうがないことだ』
思わずむっとして指に力が入る。
『あんたに片思いしていた後輩が告白もできずに死んだっていうのに、ずいぶんと冷たいじゃないか』
『そう聞かされたところで、なにも思うところはない』
発作的にスマホを殴りつけたくなり、ぐっとこらえる。
少しは興味を持ってやれないのか。
美羽はあんたのすぐ隣にいるぞ、と書きかけて、消した。幽霊を匂わせたところで爆笑されるだけだ。
「そうだ」
いいことを思いついた。清水に興味を持たせるには、アレでけしかけるしかない。
『もしかしたら保険金殺人かもしれないんだ』
『詳しく』『友人の無念というのはそっちか』
案の定、謎をちらつかせたら食いついてきた。
『にちよう あいたい』
モールスで送ると、モールスで返ってきた。
『おれもあいたい』
「う……」
なぜか胸がどきどきした。翻弄されているのは俺のほうか。
美羽はきっと清水のそばで点と線の並びを見ていると想像できる。うしろめたい気持ちと理由のよくわからない恥ずかしさで頬が火照る。
清水の試験が終わるまで連絡を取らないようにしようと美羽に言っておきながら、自分は気安く連絡を取ってしまった。美羽からしたら裏切り者に等しいだろう。
『明日も試験があるんだってな。踏ん張れよ』
『弓弦のために頑張るよ』
翻弄されてなるものか。こいつ、俺をからかって楽しんでやがる。
いや、最初に口説いたのはこっち──というか俺の空蝉をかぶった美羽だ。清水はそれを冗談と受け取っていて、同じノリで返してきてるだけ。
美羽には気の毒だが本気にされていない、ということだ。
清水にはピンクのハートのスタンプを送っておく。次に森崎のトークを開いたものの、なにを伝えるべきか指がためらった。
さっきはごめんね、などと書いたら、故意に無視したと認めることになってしまう。
冗談でもいいから軽口を交わしたいのは清水ではなく森崎のほうなのに。
『明日の土曜日、用事ある? もしよかったら一緒に映画でも』
そこまで書いたとき、梓が部屋に飛び込んできた。
「お兄ちゃん、明日、モール行こうって母さんが!」
「了解」
書きかけの文字を消去した。焦って変な文面になるほうが致命的だろう。
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