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すーっと、大きく息を吸って、勇里さんの車の匂いを嗅ぐ。


本当にいい匂い。薔薇の香り。


シートベルトを外して、さっきまで勇里さんが座っていた運転席にぎゅっと抱きついた。


あたたかい。勇里さんの温もりだ。落ち着く。


「…好きだなぁ。でも、勇里さんは…。」


男の人が恋愛対象。


失恋決定なのは分かってるけど…。


「…海果ちゃん?何してるの?」


…っ⁈


椅子に抱きついて目を閉じていたら、勇里さんが戻ってきた。


今、私、すんごい恥ずかしいんだけど!!


バッ!と椅子から離れて、膝の上に手を置いてうつむいた。


「あ、いや、えっと、その…。」


「運転席、良い香りでしょ。香水つけてるから、匂い移ったのね。ふふ。」


チラッと勇里さんを見ると、嫌な顔ひとつしてなくて、優しそうに微笑んでいた。


「気に入った?」


そう聞いて、運転席に腰を下ろす。

私は何度も大きくうなずいた。

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