第5話

 「何とか時間を作ってみるよ」そんなメールを返信した。本当は絶対に行く気持ちなのに、相変わらずの言い訳がましい器の小さい四十歳を迎える自分に失笑していた彼だった。今日、やらなければならなかった仕事を全て徹底的に片付けた。久しぶりにその時間が待ち遠しかった。


 十八時、集合場所の居酒屋へと向かった。週末の金曜日という事で店は賑わっていた。そして、英雄は奥の座敷に陣取っていた仲間たちを見付けた。そこには明子もいた。何だかとてもドキドキして足は震えていた。彼女の席の横が空いていたので、「ラッキー!」と思って、そこに座った。


「こんばんわ!」

「こんばんわ!」

「この前はどうも」

「いえ、こちらこそ……」

 何だかぎこちない挨拶から始まった。


 四十歳の男性四人と女性四人が集まった。全員が高校の同級生という存在は実に不思議なもので、たった三年間という時間を過ごしただけなのに、何だかとても安心して心が許せた。人生における三年間など、この歳になるとアッという間だ。皆の話しを上の空で聞きながらそんな事を考えていた。


 酒が進むにつれて話しが盛り上がっていった。クラスの中で皆から愛されていた剽軽者が、「高校時代に誰が好きだったとか、実は付き合っていたとか、皆で言ってみようよ。まずは男から!」と指した。


 「えー?」という表情とは裏腹に皆それなりに乗り気だった。「俺は実は野球部のマネージャーの美佐子ちゃんに、告白したらアッサリ断られて撃沈したんだ。あの一級上の先輩でプロ野球にスカウトされた人と付き合っていたらしいんだ。で、今は仙台にその彼と住んでいるんだけど」


「もしかしてあの楽天の?」


「そうなんだよ。でもさ、怪我をして手術したんだけど、病状が思わしくなくて二軍なんだよね。上には上がれなくなったら、野球選手なんて引退したら余程に成績を残していない人じゃなければ地獄だからさ。もしかしたら俺と結婚していた方が彼女は幸せになったんじゃないかって、思っているんだけど」と言って舌を出し笑ったので全員で爆笑した。その告白の場の雰囲気でまた盛り上がった。腹を抱えて心から笑った英雄自身であり皆の顔も明るかった。

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