幸せメーカー × 天真爛漫

くすぐったい朝

寝室の深い緑色の麻のカーテンは、夜が明けると頼りない光を通し、部屋はぼんやりと明るくなる。


この柔らかい明るさが好きだから、このカーテンがお気に入りだった。



柔らかい光の中で、愛しい愛しいこの子が眠る。




「んーーzzz」ムニャムニャ


可愛い


顔にかかった長い髪に指を通すと、寝ぼけながらこの手を握りしめた。


スースースースー


腕の中にすっぽり収まる小さな肩

すべすべな白い肌

足に絡まる細い足


た…谷間…!



なんだこの幸せ



谷間ツンツンしたら怒られるかな


「スーたん」小声


「ん…」


「谷間ツンツンさせてもらっていいですか?」小声

「プププ」

「起きた?」

「いいよ、ツンツンして」クスクス


目を開け、目が合う。


「おはよう」

「お…!はよ…」


え、赤くなった?


恥ずかしそうに顔を隠し、俺の胸にぐいぐい押し当てる。


「恥ずかしい?」

コクン

「こっち見て」

「やだ…」

「ツンツンできませんけど」

アハハ

笑って、やっと顔を上げると


「巧実さん…」


急な上目遣いにぐふっ!


「昨日…」

「昨日?」



「私…ちゃんと出来てた…?」



あぁ、やっぱまだ気になるのか。


クソヒモ太郎があんなこと言ったから。

マジで死刑にしてやりたい。



「もう一回確かめてみる?」


「え?」



「ウソウソ、冗談

 スーたんは昨日気持ちよくなかった?」

「ヤバかった…」

「んじゃそれでオッケー

 どこが不感症なんだか

 驚きの感度の良さだったんだけど」

「ホントに?」

「タクミウソツカナイ」

アハハハ

「ツンツンしていいよ」

「じゃあ遠慮なく」


休みの日、早く起きてなにかしたい質なのに、ベッドから出たくないなんてインフルエンザ以来だ。


ツンツンしたりいちゃいちゃする癒やしの朝。


なのにふと脳裏によぎってしまった。

朝霧ともこんなだったのかなって余計な思考。


聞きたいけど聞けない

聞きたいけど聞きたくない



「よし、忘れよう」

「え、何を~?」

「起きるか、プールだし」

「プール!起きよう!」


よかった、ラッシュガード買って。

それにこの真っ白のモチモチ柔肌を守りたい。

誰にも見せたくない。


チュッチュ


「もぉ~起きないの?」

「だってスーたん美味しそう過ぎる」

「また夜ね!」


え、今夜もいいの?

連続でもいいの?



やっとベッドから出て窓を開ける。

ぬるーい風がカーテンを揺らし、Tシャツを被ったスーたんは寝室を出て行く。

「残ってた牛丼食べよ?」

「うん、お味噌汁作るね」

スーたんの麦茶とアイスコーヒーをグラスに注ぎ、それを飲みながら大根を切ると、スーたんは横で牛丼を温めた。

「朝から牛丼って重いね」

「プールだから栄養つけないと」

「そっか!」


テーブルに並べるとスーたんは写真を撮った。


「初めての朝記念」エヘッ


泣いてもいいですか?

可愛すぎて泣いてもいいですか?!


「俺もインスタにのせよ」シクシク

「なんで泣いてるの?」

「なんでもない」

「巧実さんのインスタ教えて、いいねしたい」

「まだ何も載せてないけど」


撮った写真は、スーたんが俺のスマホからアップした。

食べながら手元を撮ったり背後から撮ったり、顔は写らないようにして、牛丼と箸を持つ俺の手が写った写真に

『幸せ1日目』

と、コメントを書いた。



「巧実さん」

「ん?」



「巧実さんは人を幸せにする天才だね」



「スーたん限定だけど」



そんな言葉に胸の奥がチクッと傷んだ。



「さ、行く準備しようか」

「うん!」


「あ、そうだ夕飯は焼きそばにしよう

 ホットプレートやろうねスーたん」

「それ楽しそう!

 あ!天城ちゃんも呼んじゃう?」

「嫌、今日はスーたんとくっつきたいから

 二人がいい

 天城はまた今度ね」

「くっついて焼きそばするの?」

「ダメ?」

「いいよ~」



俺は人を傷つけている




「巧実さん!」

「ん?」


だけどどうしても



「ちょっとだけギュッして?」



そばにいてほしいんだ。




誰を犠牲にしても


この子にだけは




幸せになってほしい。

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