スーたんのいる暮らし、拓実の五七五

会議が延び、クレームの電話に精神削られ、ぼろぼろになりながら足を引きずり家に帰る。



「ただいま~」


「あ、神田さんお帰りなさい♡」


丁度、風呂から出てきたスーたんのお出迎え。



風呂上がり

   俺のTシャツ着てる君

           ガチ愛し



巧実、心の俳句



「スーたんご飯食べた?」

「うん、冷蔵庫のひじきと角煮食べました」

「角煮どうだった?」

「めちゃうま!神田さん天才!」

「だろ~」


疲れなんて速攻で吹っ飛ぶ。


「お湯溜めちゃった」

「マジ?んじゃ入ってこよ」

「ビール冷凍庫に入れときます」


生活の中にスーたんがいることが、一週間たってもまだ夢の世界。

洗面所のS字フックに引っかけられたヘアゴムも、水滴がポタポタ落ちてるピンクのスポンジも、落ちてる長い髪も


俺のウキウキ度を爆上げする。



ヒモ太郎のリュック返却事件があってから、スーたんは昔に戻ったような感じがした。

何かから解放されたみたいに。

何かってまぁヒモ太郎だけど。

再会したとき、大人っぽくなったのかと思ったけど、あれは元々のスーたんの天真爛漫な明るさを封じていただけだとわかった。

ある意味ヒモ太郎すごい。



風呂から上がると、スーたんは床に敷いた布の上で洗濯物を畳んでいた。

「いいよスーたん、俺するから」

「いいの~居候なんだからこのくらいしないと」


居候か


「じゃあ一緒に」

「神田さんは冷え冷えビール飲んで

 映画の準備しといてください。

 今日は君の名は見るんだから」

「はいはい」


俺たちの関係に名前はなく、確かに居候なんだけどさ。

そうはっきり言われると…切ない。


「そうだ!」

何か思い出して急に立ち上がると、寝室からなにやら持ってきた。

「プールにいいなと思って買っちゃった」

「お、可愛い」

ちょっとした荷物の入りそうな籠のバッグ。

「あとね、これ」

「何?」


「今日バイト代入ったの

 ちょっとだけど居候代、受け取って」


ちょいちょい壁作ってくるよな。

まぁ、それ程の関係が築けないのかもしれないけど。

もうなんというか、俺との生活を当たり前と思って欲しいのに。


「じゃあそれはスーたんが持ってて?

 大学のお昼ご飯代と

 おつかい頼んだ時の分にして」

「でも…」

納得してない。

腑に落ちてない。

「さ、映画見ようか

 スーたん何飲む?」

「ウーロン茶でいい…」


こう見えて

   頑固な一面

      ガチ愛し


巧実、今日の二つ目の俳句



平日、一緒に夕飯を家で食べることはなかった。

バイトの日は居酒屋で食べてくるし、そうじゃなくても俺が家に帰れるのは22時だと早い方。

家に帰った頃には、スーたんは夕飯もお風呂も終わって、洗濯やちょっとした片付けなんかもやってくれていた。


「君の名は…君の名は…あった」

「じゃあ明日これでお肉買ってくるから

 牛丼作って…」ブーー

「はいはい、こっちおいでほら始まるよ」


この三日間はこんな感じだ。

晩酌しながらスーたんの見たい映画を見る。

レンタルだったり、サブスクだったり。

リモコンの操作をやり慣れた感が、俺は何気に嬉しかったりする。

勝手に俺の服を着て大学に行ってるのも、ロハコで届いた日用品が開封されてしまってあるのも、買っておいたハーゲンダッツがなくっているのも


俺は嬉しくて仕方なかった。



「泣いてる?」

「泣いてねぇ…」

泣くのは俺の方が早い。

「はいティッシュ」

「ありがど」

カシャ

「また泣いた記念」

そんな俺をすぐ撮るのも、折角感動してるのににやけてしまう。


「あーー面白かった!

 明日はなんにしようかな~」

「選んどいてね」

「神田さん、明日からティッシュじゃなくて

 タオルにしよ?」

「うん、勿体ないね」

「うん」


時間は日付をまたぐ。


それから一緒に歯を磨いて、散らかっている物を片付けて、一緒にベッドへ行く。


「んーー!眠い!」

ベッドの上で手足を思いっきり伸ばす。

そこにガーゼケットを被せると、ゴロンとくるまって背中を向けた。

「神田さん日曜は休めそう?」

ガーゼケットから顔だけ出すのが可愛い。

「日曜は休める、てか絶対休む」

「プールですか?」

「プール嫌?海でもいいけど」

「プールがいい」

「んじゃプールね」

「神田さん泳げる?」

「そりゃかつて人魚姫と言われた俺」

「姫なの?」アハハハ


ベッドの中で喋りながら

俺は途中でわざと



寝たふりをしてしまう



目を閉じて寝たふりをすると



「神田さん寝た…?」



スーたんは寝たかどうか確認をして

ガーゼケットを半分俺に掛けると




ピタッと腕にくっついて

肩に顔をつけ


眠りに落ちる。




それがあまりにも愛おしくて


その寝息を聞きながら俺も眠りにつく。

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