一緒に眠る安心感

夜中、カタッと音がして目が覚めた。


眠い目をこすり、壁の電光掲示板みたいな時計を見ると1時だった。


スマホの液晶で足下を照らし、抜き足差し足がかすかにミシッと床を鳴らす。


そーっと荷物を床に置いて、また抜き足差し足が寝室へ。



「え…スーたん?」



「はい?」


「ギャーー!」「えぇ?!」


電気がついた。


「な…なんだビックリした~…」

「私もビックリした」

「てっきりベッドにいると思ったのに!

 なんでそんなとこで寝てんの!」

「だって」

「しかも暑…」

ピピッ

エアコンが動き出した。

「エアコンつけていいし、ベッドで寝ていいよ」

「ごめんなさい…」

「ごめんなさいは言わない」

「はい…」

ぽんぽんと頭を撫でて、神田さんは

「はいお土産」

小さな箱をくれた。

「なに?」

「ゴルフの景品、最下位」

「足痛かった?」

「足痛くなくてもほぼ最下位だから」

小さな箱の中にはご馳走の写真が載ったカードがたくさん。

「好きなの選んで」

「でも…」

「んじゃ一緒に選ぼうか

 第三希望まで選んで、そっから厳選ね」

「はい!」

「選んでて、シャワーしてくるから」


神田さんが帰ってきてなんだかホッとした。


昼間はテレビで動画見放題見たり、やたら広いベランダで遊んだり。

うとうと寝てしまったり、割と楽しんでた。


だけどコンビニで買ってきた夕飯のグラタンを食べていたら寂しくなった。




「ふーーーさっぱり!」

「お帰りなさい」

「それ言うタイミング」

「だって神田さんがギャーって言うから」

「スーたんに、お帰り♡って言って欲しかったな」

「言いそびれました」


「明日…いや明日は休みだ

 月曜はお帰り♡ってハートマークで言ってね」


月曜も…いていいの?


「そうだ明日さ、スマホ買いに行ったり

 スーたんの荷物、家に取りに行ったりしようか」


「いいの…?」


「休みだもん

 あとほら、足りない物とか買いに行こう

 メンズじゃないやつ欲しいでしょ?」


当たり前みたいにここにいる前提で


優しい


「はい!」


安心したのは私なのに、神田さんも安心した顔して微笑んだ。


ぽんぽんって頭を撫でて、ボサボサになった髪を梳かし撫でた。



「そうだ、昼間お荷物来ました」

「荷物?…あぁ!忘れてた!」

「あれ」

キッチンの横に置いていた箱を指すと、神田さんはウキウキで取りに行った。

「何ですか?」

「これすごいんだ~」

ビリビリとテープを剥がし、オープン!


「じゃーん」

「なにこれ」


「あ!そうだスーたん明日の夕飯さ!」

「夕飯?」

「これでバーベキューやろう!試運転!」

どうやらバーベキューをする機械らしい。

丸いなんていうか、近代的な火鉢みたいな。

「これ煙が出ないマシーンなの

 だからここでもバーベキュー出来ちゃうんだ」

「あ、だからベランダ広いの?」

「そう!一応ここバーベキューOKなんだけど

 やっぱ煙気になるじゃんね~」


神田さんってもしかして


「アウトドア好きなんですか?」

「え!ばれた?!」

「バレますよ~家の中キャンプだもん」


「明日の夜は家でキャンプだ!」


「やったー!」


「よし、今日は寝よう

 おじさんさすがに疲れた」

「おじさん」アハハハ


「スーたんベッドでいいよ」

「でも…」

「なんか布団か簡単なベッドでも買うか」

「神田さん疲れてるのに、ベッドで寝てください」

「いいっていいって

 なんなら一緒に寝ちゃう~?」

アハハハ

「冗談冗談、俺全然平気

 むしろ床で寝たいから」


「じゃあ一緒に…寝よ…?」


図々しいかな。

でも悪いし…だってだって絶対ベッド譲るでしょ。


「気ぃつかう?」


「うん…」



「んじゃ一緒に寝るか」



寝室の電気をつけて、神田さんはベッドを整え、私が枕にしてたクッションをベッドの奥に置いた。


「スーたんそっち電気消して来て」

「はい」


パチンと壁のスイッチを消すと、寝室では神田さんが「んーーー疲れた!」ってベッドにごろんとして伸びた。


「おいで、スーたん」


昨日、床に転がって一緒に寝たのに、それがベッドになるとなんだか空気が変わってしまう気がした。

だけど神田さんはいつも通りだった。


「スーたん起きたら起こしてね」

「ゆっくり寝ていいですよ」

「休みの日に寝坊するの勿体ないじゃん」

私が横になると、神田さんはガーゼケットをかけて電気を消した。

「二時だから…八時半には起きよう」

「はい」

「スーたんスマホ何がいい?iPhone?」

「何でもいいです

 あ、お父さんには解約するように言いました」

「公衆電話見つけれた?」

「コンビニで聞いたら電話貸してくれました」

「怪しかっただろうね」

「怪しかったと思います」

「んで?お昼は何食った?」

「お昼はおにぎりとチキン買って。

 神田さんは?ご馳走でしたか?」

「うん、待って写真撮ったんだ」

「見たい見たい」


こうやってベッドの中で話しているうちに、じょじょに神田さんから返事は途切れ、寝息が聞こえはじめた。


すぐそばに聞こえるこの寝息と

この温かさが

とてつもない安心感をくれて


私は、神田さんの肩に額をくっつけて眠った。

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