寝起き記念日

年なのか、アラームが鳴る前に目が覚めてしまうのが最近の悩み。


「ふぁ~…ぁ…あ?」



うぉ!



触らないように当たらないように寝たのにまさかの



腕の中へようこそ



ゴクリ…


抱きしめちゃって…いやダメだ!

寝てる隙になんて卑怯者だ!


それにスーたんまだ全然癒えてない。

怖いかもしれない。


そっと腕を抜いて、ベッドから出た。



「……」


まだ6時半かーーい


でもベッドに戻ったら、撫でたくなるかもしれない。

抱きしめたくなるかもしれない。


よし、はりきって朝活だ!


寝室のドアは閉めて、顔を洗い歯を磨き、窓を開けてアイスコーヒーを飲む。


ベランダから見える東京タワーを見ながら、優雅な俺。


冷蔵庫にはベーコンと卵がある。

豆腐とワカメの味噌汁を作って卵焼きを焼いた。

ベーコンって言ったけどベーコンの気分じゃない。

トマトをスライスして、ヨーグルトはいつの間にか死亡。

スーたんはコーヒー飲まないよな。

あらま、飲むもの何もないな。

下の自販機で何か買ってくるか。


鍵と小銭を取ると


ガラッ


「あ、起こしちゃった?」

「神田さんなんで起こしてくれないのぉ」zzz

寝ぼけてる?

やばい可愛さだな。

「スーたん寝てていいよ、まだ7時過ぎたとこ」

「やだ…zzz」


目をこすりながらスーたんは俺の方に来て、ピタッと腕に顔をつけた。


zzz


寝てる?

「スーたん?」ポンポン

「んー…」

「スーたんほら、ここでごろんてしてたら?」

椅子の上にあったクッションを床に落とすと、スーたんはそこにコロンと転がった。

手は俺のTシャツを握ったまま。

「下にジュース買いに行くね

 オレンジでいい?」

「麦茶ぁ」

「はいはい、待ってて」


一応鍵を掛けて階段を駆け下った。


フゥ…

一旦落ち着こうか、俺


「……」


うぉぉぉぉぉぉ!なんて可愛いんだ!!!

今のなんだ!なんだったんだ!!

寝起きの君が可愛かったから今日は寝起き記念日ーー!!!


30秒程度悶えて、俺は麦茶とミニッツメイドを買って家に戻った。



「あ、神田さんおはようございます」


元に戻ってた。


「おはよ…」


「すごいいい匂いする~」

「ご飯食べる?もう出来てるけど」

「はい!」

お味噌汁を温め、トマトを冷蔵庫から出す。

「手伝います」

「んじゃそこにランチョンマットと箸あるから」

「はい」

「終わったら並べて」

「美味しそ~」


なんだこれ

なんだこの幸せ


俺が作った朝ご飯を、ニコニコで美味しそうに食べてくれるスーたんがいる幸せ。

「神田さん天才」モグモグ

「だろ~」

「バーベキューも楽しみ!」

「いい肉買っちゃお」

「私豚肉がいい!」


そして茶碗を洗うのも幸せ。

「キャー跳ねた!」

「スーたんお玉!」

出かける準備をするのも幸せ。

「ほら、これなら女の子着ても可愛くない?」

「可愛いかも!大きめな感じ~」

「んでこのキャップ」

「山ガールっぽい!」


そうして家を出た。

二人で


「「いってきまーす」」


って言って。





スーたんは助手席で楽しそうに外を見る。

「こっちの方全然来たことない」

そう言って興味津々に。

「まず家に行く?」

「靴はきかえたい」

あの夜、スーたんが履いてたのはパンプス。

どうやってもスーたんが無理矢理着てる俺の服には合わない。


スーたんが言うとおりに道を進む。

一等地の住宅街…から少し外れて

「この上なの、待っててください」

「大丈夫?車通れる道ない?」

「だいぶ遠回りなの

 それにそんなに無いから…

 ほとんど美来くんちに置いてて…」

「そっか、じゃあ買い物楽しみだな~」


待っている間、どこに行こうか考えた。

俺にはワクワクなデートだけど、スーたんはやっぱ遠慮してしまうかな。


というかよ、いいのかこれで?

強引すぎ?

断りたいのに断れない、みたいな事ない?


PPPP PPPP

ん?天城?

「はいよ~」

『あ、神田さん今日の夜暇でしょ?』

「決めつけるね」

『イカは~?』

「あぁ!そうだあれ来たんだよ

 今日来る?試運転やるけど」

って、そうだスーたんいるんだ。

「やっぱいいや、そのうちな」

『は?なんでですか!』

「いや~俺今一人じゃなくてさ

 ちょっと訳あって同居人がいて」

『猫?ネズミ?虫?』

「人間!」

『俺オッケーです

 じゃ夜行きますね』

「いや待て!せめて聞いて…」

ツーツーツーツー


話は最後まで聞けや




ガチャ

「ただいま~」

「あ…おかえり」

後部座席のドアを開け、スーたんが置いた荷物は本当に少なかった。

「スーたん今日のバーベキューさ

 俺の友達が一人来てもいい?」

「はい、全然大丈夫」


そういえばスーたんって、元々は誰とでも友達になれるようなタイプだよな。

スキーで初めて会ったときそう思ったっけ。

朝霧と真逆だなって。


友達に不自由しなかったのに友達が出来ないからこうなったんだよな。


「あ~暑かった」

エアコンの吹き出し口を自分に向けて、手でパタパタ顔を仰ぐ。

靴は厚底のスポサンに変わっていた。

「では出発~」

「進行!」

アハハハ


「今日の目的はスマホとスーたんのお買い物です」

「はい!」

「それをいっぺんに出来る場所へ行きます!」

「そんな夢のようなとこあるんですか?!」

「イオンモーーール!」

「え、イオン?」

ですよね

やっぱもっとシャレオツなとこがよかったですよね

イオンて、ファミリーじゃん

小学生の時大好きだったじゃん

でも最近のイオンはお洒落なテナントも多いし、日用品買うならイオンがいいし、化粧品だってあるし、スマホショップもあるんだイオンには!

そして最後に肉買って帰れるんだ!


「東京にもイオンあるんだ!やったー!」


え、いいの?


ということで、郊外のデッカいイオンへ。



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