いい人 × 居候

東京タワーが見える家

アパートの階段を降りると、神田さんは肩に回していた手を離した。


「スーたん大丈夫?ケガしてない?」

そう言いながらYシャツのボタンをはずして、それをふわっと私の肩に掛けた。


「ごめん…汗まみれだけど」


ほんと汗だくだ。

慌てて来てくれたんだ。



「タクシー拾うね」


「はい」


美来くん…うちに来たりしないよね…


「スーたん」


「あ…はい、大通りに出ないとこの辺は…」




「うちにおいで」




なぜか涙が一気に吹き出して、私はうんうんって首を縦に振るしか出来なかった。


「歩ける?」

「は…ぃ…」


タクシーに乗って、どっちの方にどのくらい走ったのかわからない。

タクシーの運転手さんは変に思ったよね。

大きなYシャツを着て、顔ぐちゃぐちゃな女の子と、白いTシャツにスーツのパンツの男の人。



「あ、東京タワーだ」


そう呟いたとこでタクシーが停まった。


「ここ?」

「まだ散らかってるけど」


オートロックを開けると、神田さんは郵便受けを開け

「さっき取ったんだった」って笑った。


三階の廊下から東京タワーは見えなかった。



「どうぞこちらです」


神田さんが開けてくれたドアから


部屋の向こうに


東京タワーが見えた。



「すごーい!綺麗!」



吸い寄せられるみたい入ってしまった。

お邪魔しますも言わず。


「あ…お邪魔しま…」

「いいよ、お邪魔しますは言わないでいい」


ジャラっと鍵をテーブルに置いて、神田さんはどこか行ってしまった。


リビングから見える東京タワー


「綺麗…」






「スーたん、お風呂入っていいよ。

 溜めてるからゆっくり浸かっておいでよ」

「あ…はい」


でも着替えとか…ない


というか、何も持ってない。


「入ってる間にコンビニ行ってくるね。

 俺全然下着買うの抵抗ないけど嫌?」

「や…神田さんが平気なら…」

「ん、じゃ色々買ってくるね」

「お願いします」



棚の上にタオルは出してあって、あったかいお風呂の匂いがすごく安心した。


冷静になって見ると、腕や足にアザがあった。

あの雰囲気になってから暴れまくったから、あちこちぶつけたのかもしれない。


早く逃げ出せばよかった。

なんで美来くんにこだわってたんだろう。


急に現実に帰ってきた気分。


こっちだよって

神田さんが手を引っ張ってくれた。



チャプン


これからどうしよう






「スーたん置いとくね!」

ドアの外から声が聞こえて、お風呂を出た。

本当にパンツ買ってきてくれた。

恥ずかしくなかったかな。


ガラッ

「神田さん…お先に」

「あ、やっぱだいぶ服でかいね」

「ううん、借りちゃってごめんなさい」

「じゃ俺も入ろう。

 スーたん自由にしといて

 あ、テレビ色々見れるようになってるし」

「はい」


神田さんちってなんか面白い。


わ、何これキャンプみたいなランプ可愛い~

椅子もキャンプみたい

こっち寝室?

なんか天井斜めで屋根裏みたい。

なにこれ!パラソル可愛い!なんで寝室にパラソル?!


キャンプ椅子に座っちゃおうかな


ブブブ ブブブ

あ、神田さんのスマホ鳴ってる。


「……」


そういやスマホもない…


待って、何置いてたっけ…

服に化粧品…はいいや。また稼いで買う。

でも教科書…


楽譜も…



「ふぃ~サッパリした~」


頭拭きながら出てきた神田さんは冷蔵庫を開け


「ほい、スーたん」

「え」


ビールをくれた。


「風呂上がりはこれでしょ」

「飲めるかな…」

「大丈夫、スーたん意外と強いよ」


プシュッと缶を開けてくれた。


「乾杯」


カツンと当てると、神田さんはゴクゴクゴクゴクって一気に飲んだ。


「スーたん、これ全然ね当てつけとか恩着せとか

 そんな気持ちは一切無いからね。

 悪いなとか思わないでね」

急に何言ってんだろうと思ったら、神田さんはコンビニの袋から湿布薬を取り出した。


赤紫に腫れた足


「あの友達なんかスポーツでもやってた?

 めちゃ怪力だったんだけど」

「中学の時柔道で全国3位だったって聞いた」

「あーね、さすが怪力だ」


「ごめんなさい…」


「謝らない謝らない」

「痛い…?」

「痛いけど折れてる痛さじゃないから大丈夫」

「わかるの?」

「骨折のプロだから俺~

 何回折ったと思ってんの〜」


大したことないと、笑ってくれる。

可哀想にと、哀れまないでくれる。


「あ、スーたんのビール記念日撮っとかないと

 いや、お泊まり記念日か?」


笑って

明るくて

楽しくて


神田さんといたら


大丈夫だよと、聞こえるの。



「泣き終わってから飲む?」

「んん…今飲む…」


ピコン


「いただきます」

「召し上がれ」


ゴクゴクゴクゴク


「だから攻めすぎ〜」

「ぷはーーー」

「うまい?」

「まずい…」

アハハハハハ


「さ、何かテレビでも見る?」


神田さんがテレビのスイッチを押すと、テレビにはネットフリックスのマークが出た。



「それとも何か話したい?聞くよ?」



「また…泣くかも…」



「どうぞ」



思いつくまま話すのを

神田さんは聞いてくれた。

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