第13話 成人前に一人で魔物を倒すこと

「んで本題は?」


これから大きく変わるであろう生活を考えたくないので逃げるように、必死になって聞く。

 手紙が来たってことはあれしかない。


「コア君の推測通りだったよ」


「...まだ頒布するべきではないと俺は考えている」


推測が当たって嬉しい気持ちとそれを越す危機感を覚える。セレーノ教が世界を恐怖に落とし込んでいる中、希望になる可能性はある。男は無力ではなくなったといえるだろう。でも、


「大量の死人が出るからか」


兄貴は俺の気持ちの理由を答える。俺は兄貴に頼んで、男が魔力量を増やせる条件を確認してもらった。条件がわかっているから危険なんだ。

俺は鉄扇を握りしめる。


「まだまだ、不安定なところがある。確認いや実験のために用意した被験者の中で生き残ったのは一人、あまりにも死亡率が高すぎる。私は正直、数人は生きて帰ってくるって考えてた。はっきり言って、精神的にきつい。もしこのまま情報を頒布すると男が虐殺に近いレベルで死ぬと思う。そうなれば私たちはただの殺戮者になる。世論は私たちを褒めるだろう、大量に男を間接的に殺したことから背けることはできる、けど前の価値観は許さない」


割り切れない。どこまでいっても前世の価値観に引っ張られ、変わっていない。文化レベルに差があるのに、不必要な価値観が邪魔をしてくる。


「とりあいずわかっていることは、まだまだ情報の研磨をしなくちゃならない」


兄貴は立ち上がり、部屋の隅に壁と接しているクローゼットを開ける。そこから青年が現れる。クローゼットの奥が別の部屋に繋がっているとわかったので、ノイズをかける範囲を広げておく。


青年はいかにも成人のオーラを放っている。この子が魔力量を増やせることができたのか。成人前に一人で魔物を倒すことという俺の推測は間違っていないと証明するために利用された子でもある。


「この子はリリーマインド・ラウド、隣国のリリーマインド王国の王族さんで、家族から見捨てられたところを拾った」


少し可哀そうだな。でも、これが当たり前なんだよな。貴族とか高貴な家に生まれた男性は婿入りさせて、他家と繋がりをもつ道具か、生まれたことを隠蔽し、幽閉するか見捨てるか。男性に生まれるだけで不利になるのが当たり前。


「これから末永くよろしくお願いします、鎌江コア様」


深々に腰を曲げてきた。清潔感があり、丁寧な動作が見られる。王子らしいと思ってしまった。


「はい、よろしくお願いします。では早速ですが一つ質問はよろしいでしょうか?」


俺は今後に関わる質問を投げる。


「なんでしょうか?」


「今、復讐したいですか?」


兄貴がまじかこいつみたいな表情を一瞥し、ラウドの瞳をじっと見る。

当たり前であっても気持ちは別である。割り切れる人は中々いない。


「...正直、復讐は利益がマイナスです。だから私は見返してやりたい、他の男子の希望の光になりたいと思っています」


言い切った。疑いのない発言。

あぁ、まともだ。俺はそこまでの志はもてない。これが本当の特別なやつなんだろうな。王道をそもそも考えてない俺からすればわからない考えだ。


「気分を悪くしてしまいすみません、鎌江様はすでに全男性の理想なので、私のような平凡な者はそうなれないと思っていました...」


俺が理想?笑わせてくれる。自分のことを正当化している奴が理想になってはいけない。


「うっ、ううん、とりあいずラウドには実験というか...任務をしてもらうつもりだ。魔力増幅説が男性にも適応なことを証明してもらうのと、もっと情報の研磨を行い、最終的には魔法学会に発表するつもりだ」


流れを変えるためにのどを鳴らした兄貴はこれからの行動について話した。

魔法学会か...ノンゼノンの話を無視しておくが、大手だけど腐ってきており、不祥事が多いので好みではない。


「あぁ、すまないラウド、魔力増幅説ってのは簡単にいえば魔力を空っぽになるまで使用したり自分よりも魔力量を越えている魔物を殺したりする鍛錬をして魔力量を増やせるよってこと。一般的に男性には通用しないっていわれているんだ」


......教育されていないだろうな。自然と兄貴が捕捉しているところを見ると普段から兄貴が教えているんだろうな。


「知らなかったので、教えていただきありがとうございます」


「ああ、コア君、伝えたいことはこれだけさ。雑談したいところだけど...互いに忙しくなるからまた今度にしよう」


「了解」


俺は立ち上がり、扉の前に立つが、振り返る。


「兄貴」


「なんだい?」


「ラウドに魔法を使わせようとするなら、種類は絞った方がいい。あとは杖のように媒介できる物があればいい。俺なら鉄扇のように」


「...助言ありがとう。私からも助言しておく、生徒会選挙は生徒の投票で決まることからいかに生徒から票をもらうことを意識するだろう、でも一番気を付けないといけないのは生徒以外だ」


「...ああ、んじゃ、また落ち着いたら連絡くれ」


「そうするさ、お疲れ様」


「ありがとう、仕事頑張れよ」


扉を開け、魔法を解除して出て行く。

お願いだから生徒会選挙に集中させてくれ。他の問題のせいで胃が痛い。






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