第10話 グランテノール図書館
あの後、裏路地で人間の姿に戻ることにした。
生徒会長のせいで少ししか食べれなかったので、屋台に立ち寄り、食べ歩きしながらグランテノール図書館に向かっている。普段、調べものをするときは学園の図書館を使うのだが、半分自分のせいで休校となっているので使えない。
もちろん魔人ウラノスについて調べる。できればセレーノ教の話せる一員でもいいから聞いてみたいが、そのことが
グランテノール図書館、グランテノールにおいて一番規模が大きく、本の種類が多い。噂ではあるがあまりの大きさに子供が迷子になり、餓死したみたいな話があるほど建物が大きく、また迷路のように複雑な構造をしている。少しの期待とがっかりすると覚悟して入館した。
覚悟した通りがっかりした。魔神ウラノスに関する数十冊の本はあった。でもベッロが言っている魔人ではない。同一人物だと思うので仕方なく『女神に選ばれし者の勇者譚~魔神ウラノス討伐編』という本を手に取り、近くの読書席に座り読み始める。
「ゴミやん」
シリーズ系の冒頭によくある前回のお話を簡潔にまとめた文章を読んだだけで思わずぼやいてしまった。
”悪名高き魔神ウラノスを討伐することを目的に勇者一行は魔族が統治する国に入国した。しかし下種な魔族は入国許可を得ていないとして追い出してしまう。女神の天啓に導かれていると正論を伝えても、下等な魔族どもは断固拒否。女神の天啓に背いた愚かな魔族を掃討に成功し、ついにウラノスの元に辿りく!!”
読む本を間違ったと後悔し、本を閉じて棚に戻しに行く。あまり宗教のことを知らないけど、宗教をつかって正当化するのははっきり気分が悪くなる。魔族の種族は言及されていないが、国が成り立つほど人口がおり、ある程度法整備ができている種族と考えるとエルフ、ドワーフ、ヴァンパイアや鬼あたりか。
この世界は前世ほど人種いや種族差別は問題視されていない。差別される理由は肌の色とか人からしたら奇形な姿とかではない。男性でも魔力をある程度有して生まれることである。人族の生まれたばかりの男児の魔力量を一とすると人族の女児は千であり、そこから女性は魔力量も成長していく。魔族の男児は百、女児は千であり、魔族は男女関係なく魔力量も成長していく。簡単にいえば人族が魔族を差別する理由は嫉妬なのだ。でも俺のように男児が魔力量を増やすことに成功しても差別は残るだろう。
「そんな人を蹴落とす行為は許しません!!!」
本を元あった場所に押し込んだ時に大声が聞こえてきた。少し離れた読書席か。
俺は気になってバレないように見に行くことにした。
こっちを右に行ってここはまっすぐで、左前前左前前前右、最後は本棚から覗き見る。
「私はぷんぷんだよ、カルエちゃん」
そこにいたのはカリベルトの
「ルル、ここ図書館だから静かにして」
「ごめん、ソラ」
朝日は謝りながら、イスに座る。そして江戸の方を向き、話し始める。
すでにウエメン・クウには俺の存在は気付かれており、顔を朝日の方は向いているが瞳はこちらを眺めている。位置的に一番気付きやすい朝日は俺の存在にすらわかっていないようだ。しかし声量がコソコソと聞こえる程度になり、何を言っているのかわからないので最近練習している読唇術をつかう。というかなぜ防音魔法を使わないんだ?防音魔法を使えば読唇術も効かなくなるのに。
「カルエちゃん、いくら勝ちたいからってそ...の...集団リンチはもうだめだよ」
ふぁ?嘘だよね、きっと読唇術が失敗しただけ。そうだよね??それと同時に何回もしているのか?という疑問が脳内をかける。
「今までの敵はどっちでもよかったけど、しなくちゃ勝てない」
ウエメン・クウは口パクをしてくれる。俺のところからではカルエが何を言っているのか見えないので気を利かせてくれているのだろう。まぁ、集団リンチは道徳に反する行為ではあるが校則には集団リンチしてはいけないなんてことは当たり前だから書かれていない。生徒会選挙において禁止されていることは票の集計の改ざんである。だから江戸が敵の選挙の妨害をしても問題にならないし、相手の心をへし折っても無問題である。
「クウ、どうしたの急に口パクして?」
「なんでもない」
朝日はウエメン・クウの口パクが気になり、聞く。
さすがにこれ以上は申し訳ないな。小さく頭を下げ、その場を去ることにした。あれ、貸しになるのか。まぁ、いいか。
集団リンチの可能性を視野に入れながら活動しなきゃいけない。俺が標的にされてもカリベルトがそうなっても、きっと退屈しないだろうから。書記長選挙に出馬する
カルエの考えはカリベルトに伝えない。俺が思っている以上にカリベルトは強いだろう、そうじゃなくてもカリベルトの限界がわかる良い機会だ。一応俺も知らないフリをしておくか。
ほんの少し歪んだ少年は楽しくなることを期待して、微笑を浮かべた。
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