第9話 カリベルトと生徒会長
「さて、一体何があったのかしら?」
怒りながら笑みを浮かべるなんて器用だな。そう感心していた。
今は真昼の刻が少し過ぎた頃であり、話と昼食を取ろうとカリベルトと一緒にカフェに入った。すでに注文を終え、テーブルの上にはボリュームがある料理が並べられ、少し食べていた。陽当たりの良いバルコニー席は日向ぼっこができるほど気持ち良い。
余談だが公園に戻った時、まだパブリックおせっせしていた。声を聞くと男女の声であり、少し驚いてしまった。女性優位なこの世界では百合百合していることの方が多く、よく学園で物陰に隠れてしている方々がいる。つまり男女でおせっせすることが少ないのだ。だから珍しくて驚いてしまった。
さて現実逃避はやめて、カリベルトの方に意識するか。一体どれのことを聞いているのか、わからないので聞くか。
「昨日ことか?それともさっきのことか?それか公園での獣についてか?」
「獣ことは少し気になるけど、昨日こと。さっきのことと関連がありそうだから」
その瞬間、カリベルトは防音魔法を無詠唱で使う。やはり魔法の扱いにおいては俺が完敗だな。
カリベルトはセレーノ教関連だと踏んだようだ。その通り。あ、獣について気になってはいけないよ。わかりやすくいえば最低でも五時間以上している本能のまま動くなんて、獣やん。
「早く言いなさい」
急かされたので昨日ことを言い始める。セレーノ教の襲撃を受け、逃げようとしたら追っ手として名誉幹部グリージョ・オノーレがやってきて、北グラン大通りが無茶苦茶になったこと。目的は自分がもつ情報であること。
「なんというか可哀想…むしろすごいわね。この二日でセレーノ教幹部二人と出会うなんてとんだ不運だわ」
カリベルトは哀れみに満ちた目を向けてくる。俺、運がいいなぁ。もう自暴自棄になりそうなほどに。まぁ、ご褒美はあった。とてもスウィートで柔らかかったです。セレーノ教じゃなければあのまま、事を進める自信があったほど魅力的だった。ヘタレだから現実的ではないのは自認している。
惚けているとパンッ!という音が聞こえる。防音魔法が破られた!?
「こんな脆弱な魔法を使っているのはどなたでしょうか?まぁ、カリベルト・ソファレさんしかいらっしゃらないでしょうね」
マナーを知らない女が現れた。が一瞬で誰なのかわかった。親譲りの四角の瞳孔に茶色の瞳。グランテノールなら知らない人はいない二代目君主と同じである。
「量ではなく質よ、質。鎌江コア、あなたがノイズをかけたのね?」
なんでバレているんだ!?万が一のため、ノイズをかける魔法をしれっと使っていたことを!
明らかに動揺していると感じながらも前を見る。
「ふふ、正解みたいね、消去法で考えれば簡単、まぁ、盗聴しているなんて思われたくないから、内容までは聞かないでおくわ」
初対面ながらここまで言うとは。カリベルトとは面識があり、互いに顔を見やっている。
「あら、こんなところに何故生徒会長がいるんでしょう、早く生徒会活動をしてどうですか?休憩だったとしても時間をかける暇はないでしょう?」
あっれ?カリベルトからどっかに逝け、クソ野郎と心の声が聞こえる。流石に幻聴だよね?
あまりにも耐性がなく萎縮している俺を置いて、二人は言い合っている。オンナ、怖い。
ハプスベル・スーザン。上因学園の現生徒会長であり、今回の選挙も出馬すると聞いており、候補者は彼女だけ。実績、実力と地位があるため、誰も生徒会長選挙には出馬しないのが事実だろう。カリベルトも勝てない選挙は避け、副生徒会長選挙に出るほどに絶望的な相手だ。気付いていると思うが現君主の娘さんである。だからといって傍若無人ではない…はず。防音魔法を破ったのはきっとカリベルトだと気付いていたからだ。そう結論づけた。
ここまで二人の仲が良くないのは魔法は量か質を優先すべきという論争が続いているからである。カリベルトは量を推しているがハプスベルさんは質で間違いない。個人的には質である。そもそも男性という括りで魔法を使えるほど魔力量を有している人はほぼいない。加えて男性は魔法への理解が浅い事が指摘されている。それについての論争もあるのだが…。転生者である自分ですら鉄扇を杖のように媒介にしないと魔法が使えない。そこから考えると大抵の男性は魔法を扱う適性がないと考えている。ともかく二人は両極端にいるため、敵とみなしているようだ。
「まぁ、推薦者に鎌江コアを選択したのは正解であることは素直に認めるわ。
わぁ、情報がたくさん出てくる。
荒天海豹は白蛇江と同じ世界七大魔獣の一匹であり、被害の規模が一番大きい。有名な被害は一晩にして島が四島と海岸付近の都市が五都市以上が水没したことである。もちろん要請は断っておいた。相性とか関係なしに勝てない。
生徒会長からしたらカリベルトが当選する可能性があると考えているようだ。俺としても嬉しいが、単純に受け取ってはいけない気がしている。カリベルト以上に面倒な気がする!俺ではわからないが。
「何が何でも当選したい気持ちはありますが、そこまで意識が回っていませんでした。恐れ入ります」
カリベルトは浅く腰を曲げる。俺から見ても明らかに誠意がない。
俺は終わりが見えないと察し、口を開く。
「そういえば、カリベルト、話したいことってなんだ?」
強引に聞き出す。このまま留まっていては十中八九飛び火することがわかるのでさっさと逃亡することを決める。
「二つあるわ、一つ目は休み明けすぐに生徒総会が開催される、二つ目は両親から顔を見せてほしいという、いうならば招待が来ているわ。いつでもいいから、あなた一人で来てほしいそうよ」
「了解、んじゃなカリベルト、それでは失礼させていただきます、生徒会長さん」
そう言い、俺はバルコニーのフェンスを軽々飛び越え、落ちる。その瞬間、数多の黒い蝶になる。爆発を引き起こすと問題になるので蝶の数を増やすことで爆発を回避できる。蝶たちは一匹一匹バラバラの方向に羽ばたいていく。
「少し悔しいですね」
「ええ」
慌てて鎌江の後を確認しようとした二人は、すでに彼の姿がないことに悔しがった。ここまで私たちのことを乱す男性いや男子はいなかったのだから。
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