第8話 知った自己嫌悪知らぬ同族嫌悪

「嘘ね」


ベッロは心底嫌悪をしている雰囲気を醸し出して白蛇江討伐の話を聞いて否定した。鎌江は動揺せず、ベッロが何を言うのかじっと待っている。


「溺死じゃない、死因は切断」


セレーノ教も知っているのか。白蛇江を正面から縦に切断したことを。

でも...情報はもらうぞ?あまり実力を測られることは好きじゃないんだ。


「続き知りたいなら、俺の質問に答えてくれ」


「魔人ウラノスの復活」


呆気なく答える。それもそっか、相手からすると当たり前だろうし。

カリベルトはそう、みたいに再確認している様子だ。帰ったら調べてみるか。


息を吸い込み、再び話し出す。


「白蛇江を水の中に入れたあと、大きな白い龍になったことは覚えている、次に意識が戻った後は倒した時だった、正しくいえば記憶がない」


「記憶がない?」


カリベルトは間をおかずに聞いてくる。ベッロは先程から無表情で、じっと俺の顔に視線をぶつけている。


「ああ、そうだ。白龍となった白蛇江と戦っている記憶がないんだ。大きさは森の外にいても見えるほど巨大ということは覚えているから、町の人たちに聞いても皆、記憶がないと言った。推測するに白龍になった時、霧の効果が記憶喪失に変わった。そう考えている。で、白龍を切ったあと、姿が白蛇江に戻った。その後はよく知っているだろう?」


ベッロに問いかける。...どうして白蛇江はあの森に来たのか?どうして俺はあの時白蛇江は力を回復していると考えたのか。単純な脳みそでもわかる。


「もちろん、きっかけもその後も知っている。そのことに気付いた貴方が嫌い」


ベッロは魅力的な薄笑いをする。俺の内心は一瞬ドキッ!と精神攻撃をくらっていた。

きっかけはセレーノ教が白蛇江を攻撃したこと。その時、住めなくなった環境になったかもしれない。結果として移動した白蛇江。濃霧のことも相まって俺が白蛇江と戦っていることは知らなかったのだろう。さらに白龍の霧で白龍のことが記憶になく、その後の俺が倒した白蛇江の死骸を確認したのだろう。そして二代目君主が来たことも。


「そっちも記憶がないんだ?」


ベッロは頷いた。つまり誰も白龍をどう倒したのか知らないことになる。いや俺以外白蛇江が白龍になったことすら知らないのか。もし白龍になることを知っているなら一々俺に聞く必要はないはずだ。


「わかった。もうじき、面倒なやつが来る。帰れ」


ベッロはあまりにも強力な嫌悪と殺意をまき散らす。カリベルトは真っ青にしており、俺は驚いていた。


ベッロは最初からあったかのような空中に浮いたドアノブを開ける。開けた先の空間はここに来るまでにいた公園の風景だった。


「ちょっ」


俺はカリベルトをその空間に押し込む。押し込んだ後、見てみるとカリベルトの姿はなかった。予想通り。


「こっち向いて」


俺も出て行こうとするとベッロに呼び留められ、恐る恐る振り向くと、唇に柔らかいものが当たった。


「え...うんッ!」


急なことで動揺するが口の中に何かが入ってくるのを感じた瞬間、俺はベッロを俺から押し剥がす。俺は逃げるように出て行こうとすると腕を掴まれる。その際に少し爪がたてられたことに気付けなかった。


「ちゃんと見ていて、私だけまともだから」


そう言われ、俺は押された。鎌江はこの時のベッロの表情は精一杯笑顔になっていたことは知らない。


不満げにしているカリベルトを視界に写しながらも唇にされたことに気が取られ、ニヤニヤが止まらなかった。


△▽△


「かなり気に入ってるじゃん、好きになったの?」


背後から声が聞こえ、槍で刺すが感触はない。

邪魔するな、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。こんなやつ死ねばいいのに。嫌いに埋め尽くされた思考に戻ってしまう。


私は爪に付いた鎌江コアの皮膚を綿棒で取り、空中に投げる。綿棒は浮いたまま。


「ちょっと、何しているんだい、これがどこまで大事なのか知っているのかい?あぁ、悪かった。ウラノスに救われたことがあるほど古参な君に問うのは失礼だった」


何本も槍を飛ばし、綿棒あたりに刺さるようにするが感触はないが槍は止まっている。さっさと死んでくれ。


「嫌悪幹部ベッロ・オッディオ、天敬書てんけいしょに次なる活動の更新が来ている」


そう言い、やつの気配は完全に消え去る。

落ち着かない精神、私に嫌悪する。未だに理由がわからない行動、発言に嫌悪する。槍を飛ばして私の右腕を体から分離させる。イライラする。私よりも弱い彼に嫌悪しなかったことに乱す私を。


次なる活動場所に向かった。早く激怒に混ぜった嫌悪を消したくて。





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