第6話 公園にて美女に遭遇、誘拐

「ここまで来れば問題ないだろう」


門に近い公園に到着し、カリベルトは掴んでいた手を離す。もう少しだけ掴まれていたかった。


「そうだな、本題に入るが話ってのは?」


淡い浅い欲望を封殺し、カリベルトを見る。少しためらっている表情をしていた。


「どうし...「何か聞こえない?」


カリベルトに遮られ、耳を澄ます。ガサゴソと生い茂った草むらの中から音が聞こえる。そして人の色気のある荒い息遣い。


「慌てて隠れたんだな」


そう結論づけた。こんな朝っぱらからパブリックおせっせするとは。やってんね。でもまだ学生に見せてはいけないという心理が働いているだけまともか。


「そうね?小型動物かしら」


「ああ」


嘘かわからないカリベルトの天然に驚き、動揺して曖昧な返事をしてしまう。そんなやつではないと内心思いながら。


「座るか」


「そうね」


近くのベンチに腰を下ろす。考えてみいれば、昨日にセレーノ教の襲撃があり、油断を許さない状況の中で朝からパブリックおせっせしていることに度胸を感じる。

結局、襲撃の目的は俺がもつ情報の得ることだろうから、一部の責任は俺にある。しかし都市の人たちは襲撃の目的を未だに調査中らしい。つまり俺は責任から逃げることができる!復旧作業を手伝わなくていいんだ。そう思い嬉しくなる。


少しの間、二人の間に沈黙していた。破ったのは二人ではなかった。


「あなたが鎌江コア?」


「そうです」


声がかけられ、思わず反応してしまう。見てみると美しい人が立っていた。容姿ももちろんだが立ち姿すら美しいと感じた。クールだと思わせる紅色の瞳をしたつり目、ほんの少しの柔らかさを魅せる先端が内側に少し巻いている黒ロング。足元が少し透けて見える黒のワンピースからエロスを感じる。淫乱とは感じないギリギリのボディライン。

見惚れていると横からの厳しい視線に気付き、気を取り戻す。おかしいな。整っている容姿ばかり見てきて、耐性があるはずなのに。あとで自己批判をして次はないようにしておかないと。


「ごめんなさい」


その美女は腰からしっかり曲げ、頭を下げる。その言葉には嘘がこもっておらず、誠心誠意言っていることがわかる。


「え」


心あたりがないので慌てていると、その美女は頭を上げ、口を開いた。その様子は普通の人ではなかった。


「嫌いな相手でも謝罪しない程には腐ってない。昨日、あなたよりも嫌いである名誉のクソがやったことに貴方に対して申し訳ない。それを伝えない私の方が嫌いだから、こうしてやって来た。少し移動しましょうか、そこの貴女も一緒で」


唖然とする暇もなく、瞬きをするよりも早く視界が変わった。部屋の中だった。大きさはわからない。なぜなら真っ暗だったから。

美女の黒のレース手袋に包まれた手には蝋燭立てがあり、そこで燃える蝋燭が唯一の灯り。


昨日のこと...セレーノ教関連で、誰なのかわかるヒントにはなるのは『嫌い』というワード。わかった、一番のまともな幹部か。しかし見る限り、絶世の美女なんだよな。セレーノ教幹部っていわれてもわからないと思う。


「そもそも貴女は誰かしら?急にこんなところに連れてきて何をしたいわけ?」


カリベルトがベッロ・オッディオに責め立てるように強気に発していく。しかしベッロは無反応で、俺の顔をじっと見てくる。何を言うのか待っているかのように。


「ベッロ・オッディオ、話が終わったら、俺らを五体満足に帰してくれるんだよな?」


ベッロの瞳には憎いという強い意志を感じられるが、顔はほくそ笑んでいる。カリベルトは俺の言葉を聞いて、やってしまったと呆然としている。


「気付いてしまう貴方が嫌い」




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