第二章 呪いのスポット
第8話
クラスメイトの思いつきで席替えをすることになった。一番前列だった詩月は、席替え後は一番後ろの列になり、左隣にいた女子生徒が右隣に移動した。
「また隣ですね。嬉しいです」
「そうですね。この席でもよろしくお願いします」
「こちらこそです」
互いにぺこりと会釈して、前を向く。すぐ近くにあったはずの黒板が今は遠い。
変な時期に転入してきた守屋がすぐに学校に馴染んだように、詩月のこの違和感もすぐに慣れることだろう。
慣れるといえば、最近よく同じ学校の生徒たちが話しかけてくるようになった。以前は挨拶程度だったひとでも、軽い世間話を持ち出してくるほどには詩月に親しみを覚えているらしい。
いまだに詩月は的確な対処、距離感を掴みかねているが案外隣の席の女子生徒との関係のように気負う必要はなさそうだった。
「今日の帰りに本屋寄ろうぜ」
「え? カラオケは?」
「両方行こう!」
詩月の斜め前の席で男子生徒たちが楽しそうに話をしている。ちなみに詩月は今まで一度もカラオケに行ったことがない。
今日は帰りにカラオケとまではいかないが、守屋に買い食いにつき合わせるのも良いかもしれない。放課後の予定を決めた詩月は少し上機嫌で授業に挑んだ。
放課後になると守屋が教室まで迎えに来て、二人並んで昇降口を目指す。
午前中に考えていた買い食いの件は、残念なことに午後から降り出した雨のせいで中止することになった。
普段は外で活動している運動部たちは校内の廊下でトレーニングをしており、昇降口には傘を持っていない生徒が屯っていた。
「お嬢さま、傘はお持ちで?」
「折り畳み傘があります」
「さすがです。俺も入れてください」
用意していないの、と呆れながら詩月は鞄から折り畳み傘を取り出した。
詩月は普段からこれを持ち歩いているので、急な雨でも心配するがない。けれど折り畳み傘を持ち歩く習慣がない生徒たちは雨が小雨になるタイミングを軒先で見計らっていた。雨の湿気た匂いが校内を充満する。
この折り畳み傘は二人も入れただろうかと考える詩月の視界に紙切れが映った。
それは昇降口付近のコルクボードに張り出された新聞部の作った記事で、でかでかと白いシーツを被った愛らしいお化けのイラストが描かれていた。
「どうしました? お」
詩月の視線に気づき、守屋も記事に目を通した。
書き出しのタイトルは体調不良者続出! 幽霊の仕業か⁉︎ というものだった。
タイトルの下に詳細が書かれており、詩月は通しで読んでみた。
「面白そうな記事ね」
「そう、ですか? 俺はあまり好きじゃないですね……」
珍しい。守屋にしてはあまり食いついてこなかった。
「どうせ雨で寄り道なんてできないし、校内で少し遊んで帰りましょう」
「え、えぇ……まぁ、お嬢さまがそういうなら……」
より詳細な話を聞こうと新聞部の部室に向かおうとする詩月のあとを、守屋は渋々ついていった。
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