記憶蘇生の勇者パーティー
@higashiike_naga
第1話 転生の夜
空は赤紫に染まり、森の木々は強く揺れている。
私は、木の枝を握りしめてその場に佇んでいた。
「また、この夢……」
そこは、見覚えのある風景だがどこか非現実的で、奇妙だった。
私は、傷ついた足で一歩ずつ前へと進み、黒い霧がかかる森を進んだ。
森を抜けた先には、大きな石碑らしきものが立っている。
石碑には古い文字だろうか。いくら見たか覚えていない程だが、読めたことは一切ない。
石碑の前に立った瞬間。私の心臓が強く締め付けられる感覚がする。
何か忘れている気がする。そんな事を考えていると、遠くから女性の声がする。
「アヤ……」
私の名前を呼ぶのは一体誰なんだろう。何度も見たこの夢だが、淡く懐かしい事しか思い出せない。
私は、いつも見るこの夢に決着をつけたかった。
だから、いつもとは違う事をした。
「誰なの……?」
応答はない。しかし、石碑から強い光が放たれる。
目の前が、真っ白になっていく。
カーテンから見える街並みと、奥に見える朝焼け。
やはり、私は夢を見ていたのだ。
しかし、鼓動は早く、涙が流れていた。
不安が、そこに残っていた。
「やっぱり、夢か……」
私は呼吸を整え、顔を洗いに行く。
この夢は、10年程前から毎日見るようになった。
しかし、どれだけ見ても意味は分からないままだ。
「アヤ!早くしないと遅刻よ!」
母親の声がして、リビングに行く。
いつもより少し遅く起きた私は、急いで朝食を食べる。
父親はパンを食べながらテレビを見ている。
「今日未明、霧野町で発光現象がありました。原因は不明ですが、電力会社が調査を……」
霧野町は、私が住むこの町の事だ。
しかし、そんな事があったとは。悪夢を見ていたから気づかなかった。
私は朝食を食べ終わると、制服に着替えて家を出る。
「まもなく、霧野高校行きの電車が……」
私の家から高校までは電車を使って20分かかる。
この町に高校は1つだけで、この時間の電車は大混雑だ。
「あっ、おはよーアヤ。今日は寝れた?」
友達のサクラが私の隣にやってくる。
「今日も寝れなかったー。サクラがおすすめしてた薬も効果ないわー」
サクラは少し前に睡眠薬を勧めてきていたが、悪夢は続いた。
「そっかー残念。あっそうだ、今日はどんな夢だった?」
サクラは、珍しく私の見た悪夢の内容を聞いてきた。
「いつものだよ。森と石碑の」
そう言うと、サクラは静かにこう告げた。
「アヤ。私も今日似た夢を見たんだ」
偶然だろう。もしくは、私の夢の話を聞いて近い夢を見たとかだろうか。
「もがき苦しんでいる仲間、それを助けようとすると自分も苦しんでしまって。そして石碑が地面から生えてくる。そんな夢だった」
すると、私はどこかで感じた事のある感覚になる。
だが、何かは思い出せない。
「終点霧野高校前……」
「あっ、駅着いた。降りよっか」
そうサクラが言うと、多くの生徒が高校へと向かう。
「なんか夜に発光したらしいじゃん」
さっきテレビで言っていた事だ。
「俺も見たぞ。この高校の近くから光ってた」
そう言っている生徒もいた。
「おはよう。アヤ、サクラ。夜にあった発光、私見れなかったなあ」
そう言って私達の元へやってきたのは、同級生のリョウ。
学者を目指しているらしく、昨日の光も調べたそうにしていた。
「それと、なんかその後寝たら変な夢見てさ……」
リョウはそう言うと、内容を話した。
「何か得体の知れない物に攻撃して、その後息の根が止まりそうになるくらい苦しんでさ。それで目が覚めたんだけど」
サクラの言っていた夢と似ている。
すると、後ろからサクラと同級生のミサキがやってきてこう言った。
「それ、私も見たけど」
何か超常現象でも起きているのだろうか。
似た夢を見た人が、今日は何故か自分以外にも居る。
「あっ、夢の事は後にしよ。もうすぐで門閉まっちゃうよ!」
そう言って、私たちは急いで学校へと入った。
1年生のサクラとミサキは4階の教室へ向かい、私とリョウは3階の教室へと入る。
「あっ。アヤさん、リョウさん。おはようございます。今日は……、いえなんでも」
教室でいつものように小説を書いている同級生のユウは、何かを隠している雰囲気だった。
「んっ、ユウ。どうしたの?」
リョウがそう聞くが、ユウは何もないように振舞っていた。
朝のホームルーム開始のチャイムが鳴る1分前、見覚えのあるような少女、しかしクラスメイトではない少女が教室に入ってきた。
「あっ、カナだ」
リョウはそう言う。カナって誰だっけ。
「えーっと、誰だっけ」
そうリョウに小声で聞くと、カナという少女は私達に向かって驚きながらこう言った。
「セレフィーネ、アリヴィス。それにイシェル。まさかこんな所に……!?」
すると私は、はっきりと記憶を思い出した。
大昔、魔王と戦った「勇者パーティー」としての記憶を。
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