パパ活していたら初恋の人の娘と遭遇してしまった。そして、何故か同棲することになった。

田中又雄

第1話 パパ活始めました

『俺たち、結婚することになりました!』と、大学時代の友人からRINEが届く。


 これで今年3回目の結婚報告&結婚式の招待状。


 自分の生活とのギャップに思わず深いため息がこぼれる。


 現在の時刻は22時10分。日付は2024年5月14日。場所は駅前にある高層ビルの21階のオフィス。


 横に置いてあったホットコーヒーにそっと触れる。

買ってからそれなりに時間がたったはずだが、まだ温かい。

きっと、同い年の多くの人は今の時間、家族と温かい家庭の時間を味わっているかと想像すると、いやな溜息が漏れてしまう。


 気分を変えるために椅子から立ち上がり、のそのそと窓に向かい、外の景色を見る。


 こんな時間だというのにまだ外は明るい。


 そのまま、ぼんやりと外を眺めながらコーヒーを一口含む。

そして、先ほどのRINEを開いてこう返信した。


『おめでとう!ごめん、その日はちょっと用事があるからいけないわ!』...と。



 ◇数日後


 目を覚ますと、時刻は10時を回っていた。

休日とは言え、こんな時間まで眠ってしまうとは...情けない限りである。


 欠伸をしながら、起き上がり、冷蔵庫に行き、早朝に一杯のコーヒーを飲む。


 そうして、ルーティンのようにテレビの電源をつけて、ニュースをぼんやりと見つめる。


 また強盗か...と、嫌なニュースにため息を吐きながら、今日のやるべきことを思い出す。


 そうだ...掃除しようと思ってたんだった。

2LDKの我が家は客人があまり来ないこともあり、そこそこ散らかっていた。


 彼女でもいればこんなことにはならないのだが...。


 そう思いながら重い腰を上げて掃除を始める。


 未だに大学から届く会報、何かが入っていたであろう空の段ボール、5年前に買ったアクション系のDVD、そんなものを片付けているといつの間にかスイッチが入る。


 そうして、断捨離オジサンと化した俺は不要なものをどんどんとゴミ袋の中に放り込む。


 そのままの流れで、クローゼットの下にあるよくわからない段ボールに手をかける。


 それは...昔の思い出がたくさん詰まった段ボール。

そこには中学時代の卒業アルバムを入っていた。


 入ったはずのスイッチは完全に切れ、思わずそのアルバムを開く...。


 何度も開いたことがあったせいなのか、それとも偶然なのか、あの子がいたクラス写真が一番最初に開く。


 名前は天野宮あまの 莉乃りの


 うちの中学のマドンナ的存在であり、俺の初恋の女の子。


 黒髪ロングでキリっとして整った顔。

真面目で優しく、どこか気品が漂う所作と、しかし笑顔は気さくな女の子。


 初めて見た瞬間に恋に落ち、いや恋に堕ちた。


 この時は一日中、彼女のことが頭を離れず、何をしていても彼女のことが頭をよぎった。


 隣のクラスということもあり、ほとんど接点はなかった。

それでも、どうにか接点を作ろうと、いろいろと試行錯誤をしたものだ。

例えば、彼女が学級代表を務めることになったと聞いた時には俺も立候補をしたり、小学校の頃に仲良かった友達に会いに行くふりをして、彼女を見に行ったり...。


 しかし、そんなストーカー紛いの行為もむなしく、そもそも高嶺の花である彼女と雑草の俺では釣り合うわけもなく、告白もできないまま、中学を卒業した。


 それ以降、高校も違い、当然連絡先も知らない俺は彼女と出会うこともなかった。


 それから、高校、大学、社会人と、女性との接点はそれなりに増えていったものの、あの初恋を超える出会いはできず、女性からアプローチをされることがあっても、断り続け、結局33歳独身(童貞)彼女0人として現在も生活をしていた。


 どこかで妥協していれば、それなりに幸せな家庭を築けていたのかもしれない。

まぁ、そんなことを考えても仕方ないのだが...。


 俺はゆっくりと卒業アルバムを閉じる。

そして、それを捨てようか迷ったが、結局そのまま元あった段ボールに仕舞う。


 考えたところで仕方ない。

過去には戻れないし、時は止まらない。

動き続ける世界で俺は生き続けなければならないのだ。


 そうして、片付けスイッチを無理やり入れて、何とか部屋を片付けるのであった。


 ひと段落して、整理された部屋で大きなため息をつく。


 そのまま、何の気なしに携帯で調べ物をしようとブラウザを開くと、とある広告が目に入る。


【必見!新パパ活アプリ爆誕!】


 安っぽい広告を見ながら鼻で笑う。

しかし、なぜか興味をひかれた俺は思わずその画面をタッチし、アプリのダウンロードを始める。


 パパ活...か。

こんなものをつかったところで何の解決にもならないことはわかっていたが、若い女の子とお茶でもすれば、何か心に変化があるのではないかと思った。


 そのまま、初めてのパパ活アプリに少しだけ心を躍らせながら、プロフィール作成などを進める。


 そうして、現在地から近い場所で会ってくれる女の子を探すべく、写真が並ぶページをスクロールしていると、ある画面で指が止まった。


「...天野宮...さん?」


 それは中学時代の彼女を少し大人びさせただけに見えるほどに、瓜二つな女の子の写真だった。


 過去を忘れるべく始めたものなのに、また過去に固執している矛盾に気づきながらも、俺は気づくとその子をタッチしていた。


 そして、彼女にデートのお誘いをするのであった。

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2024年11月2日 07:15 毎日 07:15

パパ活していたら初恋の人の娘と遭遇してしまった。そして、何故か同棲することになった。 田中又雄 @tanakamatao01

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