第9話

私はもう一度空を見上げ、再び彼に視線を戻した。



それから思わず、クスリと笑う。



そんな私を見て、彼はいぶかしげに目を細めた。






「問題ないよ。会えてる会えてる。

今日は曇りだからね」



「…………曇ってるのは関係ねぇだろ」


「あるよ。

だってさ、せっかくの一年ぶりの再会でイチャイチャできるのに、地上の人にジロジロ見られながら再会なんてイヤでしょ?」


「………それ、けっこう言う奴いるよな」


「そうそう。だからさ、」





私は彼の胸を押して離れ、軽く腰を上げた。

それから彼の隣に座り、そっと目を閉じる。



夜風が心地いい。





「……七夕に曇るのはね、天帝から2人へのご褒美なんだ」


「………褒美?」


「うん。……七夕って大体曇ってるよねぇ…」


「………そうだな」





毎年毎年、どんなに晴れの日が続いていても、七夕は曇っていることが多い。


地上の人々は口を揃えてこう言う。




『あぁ、残念』



と。




でもきっと逆だ。

空が曇らなければ、きっとささにかけられた願いは叶わない。



なぜなら。







「天の川に橋なんてかけたらさ、地上で見てる人がびっくりしちゃうでしょ?」


「…………」


「えっ!何あれ!なんかいつもとちがーう!みたいになったら大変じゃん。

それにさっき言ったとおり、みんなに見られてたら、2人はせっかくの再会を心置きなく楽しめない」


「…………それで?」


「それでだね、つまり、……そう。

気兼ねなく会いなさいって。

2人を引き裂いた神様の、思いやりで曇らせてくれてるんだよ」


「思いやり…」


「よくさ、曇っているときは小鳥が天の川に橋をかけてふたりをあわせるって言うけどさ、さすがにあんな大きな川に小鳥じゃ橋は無理だと思うんだよねぇ」


「………なるほど」






ーーーーそうか。………今年も会えてんのか






ポツリ、彼はそう言った。







「…………晴れてる時は?」


「ん?」


まれに晴れんだろ、七夕。

曇りの時に会ったんなら、晴れた日は会ってないんだろ?」


「あぁ…。それはねぇ、仕事サボった罰なんじゃないかなぁ」


「は?……サボり?」





ポカンとした間抜けな表情を浮かべた彼を見て、私は思わず吹き出した。

笑いが止まらない。





………でもしかし。





腹立つ。






こんな間抜けな顔してるのに…





この人はなんで顔は崩れないんだぁぁぁぁ⁉︎⁉︎



いやいや、崩れろよ。




なんだよ。

イケメンってそこまで贔屓ひいきされるのか?

神様もエコ贔屓するのか?


ズルくないですか。

凡人に対しての扱いひどくないですか。




凡人が間抜けヅラして見てくださいよ。

間が抜けすぎて見てられなくなるんですよ。


ひたすら笑われるしかない醜態しゅうたいさらすだけになるんですよ。





それに比べてなんです?

イケメンだからって………




イケメンだからってぇぇぇぇぇっ!!!!







「………俺の顔は今どうでもいいだろ」


「………一発殴らせてくれたら答える」


「断る」


「お♡ね♡が♡、」


「却下」


「最後まで言わせてよ。ねぇ、本当に。

というか最後まで言わせてくれた上で私の渾身こんしんの誘惑に是非とものってもらってさ、殴らせてよ」


「最後まで聞くまでもねぇし、お前の誘惑なんて俺には微々たる威力もねぇよ。

その骨みたいな体のどこに誘惑されろって言うんだ」


「とか言いながらいつも抱き潰してくれやがってるじゃないか!」


「それが?」


「…………ムキーー!!!!」






いいですか?全国の人間諸君。


あまりにも頭にくるとですね、

人間は奇声を発します。




ここ大事。




覚えておきましょう。




そして。




実際にそういう人に遭遇そうぐうした時はですね。







温かい目で見つめ、広い心で受け止め、

優しい言葉で慰め、


そして、

イケメンは顔を差しだし、⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎に殴られましょう。 (これが一番重要ポイント↑)

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