第5話
…………ゴホン。
ま、まぁ、そんなことはどうでも良いことにしよう。私は心が広いから。
もぞもぞと毛布から這い出ると、足首の足枷がジャラリと鳴った。
さっきは気づかなかったが、左足首に無骨なら鉄枷がはめられている。
そしてよくよく見て見れば、その足枷には鍵穴はない。
私が眠っている間に溶接したらしい。
よくもまぁ私に火傷させないで器用にできたものだ。
かなり頑丈そうで、外れそうになかった。
仕方ないと鎖を目で追う。
どうやらかの鎖は壁に繋がっているらしい。
鎖1つ1つをじっと見てみれば、1つだけ少し脆そうな部分を発見した。
キョロキョロと辺りを見渡せば、机の上にからっぽの灰皿があるのを見つけた。
見たところこの鎖は鉄で、灰皿も鉄。
灰皿は使い物にならなくなるだろうが、まぁそれはいいことにしよう。
灰皿を振り上げ、数度もろくなっていた鎖部分に振り下ろす。
するとパキン、という音がした。
思っていた通り、その鎖部分だけ中が錆びていたようだ。
思ったより簡単に割れた。
毛布を肩にかけ、裸体を隠して立ちあがる。
それから、ジャラジャラと外れた鎖を引きずってサッシから出た。
ーーーーゆらゆら、ゆらゆら
「………雑だな」
「すいませんでしたー。
……というかそもそも、私が抜けやすいようにわざと鎖が
灰皿だって、吸い殻が1つも入っていませんでした。
私が手に取りやすいよう机に置いたのはあなたでは?
」
「…………敬語やめろ」
「うふふー。……
上裸に黒のズボンを履いた男が、バルコニーの手すり壁に気だるげな様子で両腕をついていた。
色白の滑らかな肌が、まるで夜の闇から浮き出るように異彩を放っていた。
夜空を見上げるようにぼんやりとしていた彼は、「嫌です」と返事をした私の方へ振り返る。
漆黒の髪と瞳に、紅い唇。
精悍な顔つきに、程よく筋肉のついた体。
しかし男にしては全体的に華奢な印象のある体格だった。
振り返った彼は、今度は手すり壁に背を預けて私をじっと見つめる。
「……………」
「……………」
「…………へぇ…。嫌、ね」
彼の瞳に、
その表情を見た私は、たぶん思いっきり顔が引きつった。
いや、たぶんじゃなくて確実に引きつってるだろう。
これは、やばい。
今すぐなんとかしなければ、再びベッドイン間違いなしになるに違いない。
やばい。
生命の危機だ。
「……………すみません。すみませんでした。
ごめんなさい。直します」
「……………」
「…………あ。
直す直す。今すぐ、
だから許して、お願い、本当に。
嫌ですなんて発言は無かったことに…」
必死に言い訳をする私を見て、男がふっと笑った。
ーーーーゆらゆら、ゆらゆ……
彼は持っていたタバコを近くの灰皿に捨てると、私を手招きした。
なんだろう?とヒョコヒョコと近づけば、彼はふわりと私を抱きしめる。
かなりの体格差のある私と彼。
彼からすれば、私は小さなぬいぐるみを抱きかかえるような感覚で抱きしめているようなものだろう。
大きな胸にスッポリと収まっている私は、 彼の腕の中でもぞもぞと顔を上げた。
視界に映る彼は、やっぱり優しげな柔らかい表情で私を見て
「……よく寝れたか?」
「………おかげさまで。でもまだ眠い…」
「よく寝るな。お前は」
「誰のせいだと思ってんの…」
クスリと笑いながら、彼は私の頭を撫でた。
心地よくてすり寄れば、彼は私の頭を撫でていた手を私の頰に滑らせる。
「………お前、顔小さいよな」
「嫌味?嫌味なの?
体も顔も小さい上に童顔だっていいたいの?
そんなにディスらないで…。
乙女のハートは弱いのだよ…」
「乙女のハートは
「はっ、鋼より⁉︎そんなに
ん?それよりちょっと待って。
その言い方だと、私は乙女じゃないみたいになるんじゃ…?」
「乙女はもっとおしとやかだろ」
「……………おしとやかだよ、私」
「おしとやかな乙女は灰皿で鎖割ったりしないし、服も着ないで毛布だけ羽織ってここまできたりもしない」
「服は君が取り上げたくせに。
1枚もないんだからしょうがないじゃないか」
「俺の着ればいい」
「……………はい」
人類最高の知能、
ついに心折れる。
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