第4話 百姫夜行④
爆速で帰り、自室の鍵をかける。
大事に抱きしめてきた鞄を開くと、封筒は消えずに存在してくれていた。
「ゆっ、夢じゃない……! ラブレターだっ!」
はやる気持ちを抑えて机に向かい、封筒を掲げて検める。
高級そうな封筒は蒼色で、紋章入りの封蠟は本物。凄く本格的だ。
それから封筒の右下隅には、英語でBuddiesというロゴが入っている。
バディーズ……メーカー名かな? 差出人名という感じじゃなさそうだが。
封筒を裏返してみると、可愛らしい字で【空木 夜光様へ】と宛名が書いてある。
「ま、間違いでしたオチでもない……。よし!」
深呼吸して、封を破る。すると中から意外なものが出てきた。
小さな羽根ペンが一本。
四つに折りたたまれた羊皮紙が五枚。
それからスマホ大のカードが一枚。以上、である。
「……雰囲気あるな。羊皮紙とは……」
美術館の展示史料でしか見たことない。普通こんなものにラブレターを書くだろうか?
そんな俺の疑念は、折りたたまれた羊皮紙を開いた瞬間に的中した。
【以下の問題を解決せよ】
「……んん? 問題を『解決』しろ?」
妙な言い回しに眉をひそめるも、とりあえず読んでみる。
「『とある事件により、心を病んでしまった少女がいる。これにより心に負の魔力を宿してしまった少女は、影の化物に取り憑かれてしまった。月が満ちるまでに少女を救えなかった場合、少女の心は化物に吞み込まれ、世界に災いをもたらす闇の魔女に変身してしまう。このような事態を防ぐため、問題の解決法としてどのようなものが考えられるか。記載の状況、周辺情報、制約事項を考慮し、回答してほしい』……何か、回りくどい問題設定だな……」
ざらっと全体を眺めていく。
どうやら羊皮紙一枚につき一題、合計五人の少女の問題が出題されているらしい。
問題の方向性は一題ずつ異なっていて、それぞれ事態は深刻だ。これは心を病んで、化物に憑かれてしまっても仕方ないだろうなあと思うものばかり。
だけど今一番病んでいるのは、間違いなくこれを読んでいる俺だった。
「ラブレターじゃ、ない……だと……?」
俺はしなしなになりながら、最後に残った小さなカードを読む。
可愛い女の子っぽい文字で、こう書いてある。
【全問正解された暁には、わたくしは夜光さまに永遠の愛と、純潔を捧げます】
「…………い、一応解いてやるか。一応ねっ?」
俺は性欲の奴隷だった。
純潔を捧げられたい一心でペンを取り、頭脳を回転させていくことにする。
「───────────────うん。分かった」
五題並列ですぐ解けた。別に五教科じゃなくても、頭を使う話ならお手の物だ。
俺は歯を食いしばり、羊皮紙を突き破るぐらいの筆圧で回答を記入していく。
「純潔純潔純潔純潔純潔……!」
目が血走ってたと思う。それぐらいこの童貞という呪いから逃れたかったんだ。
「──はい解けたぁっ!」
証明終了マークをがりっと刻む。
するとその瞬間、五枚の羊皮紙が蒼い光を纏い、意志を持ったようにふわりと漂い始めた。
「なっ……、なんだっ!?」
俺は椅子ごと後ろに倒れてしまう。
間抜けなことに、尻餅をついたまま驚いて立てない。そんな俺を捕まえるように、五枚の羊皮紙は等間隔に広がって円陣を組んだ。
羊皮紙が一気に燃え上がる。
五つのヒトダマと化したそれらは、光の線を延ばし合う。五芒星や二重円、それから幾何学模様を描いて魔方陣を完成させ、
『──やった。マッチング成立……! 逢えるっ!』
謎の少女の声が響く。
やがて魔方陣全体から、強烈な蒼の光が立ち上り──、
「う、うわぁあああああ────────っ!?」
俺は目を開けていられず、顔の前を手で覆った。
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