第3話 百姫夜行③
童貞を卒業するのは難しい。
まず風俗は卒業じゃなくて中退だから絶対に認めない。第一俺は高校生だから無理だしな。
それを念頭に置いた上で考えると、童貞には越えるべきハードルが多すぎる。
まず当たり前だけど、自分から女の子にアプローチをかけないといけない。
湊のようなイケメンでもない限り、女の子は基本的に向こうから来てくれるものじゃない。常にいる競合のオス共から勝ち取る必要がある。
そのためにはおしゃれを研究したり、女子ウケのいい話題を習熟するのはもちろんのこと、こういう誰得な自分語りをしないように自制したり、男からするとつまらんなあという話でも辛抱強く聞いてあげたりと、とにかくマメな努力を重ねないといけない。
しかもこれだけ頑張っても、恋愛成就率は100%じゃない。競合の男に取られたり、色々なアンマッチが起きて失敗するのはザラである。
だから重要なのは試行回数だ。
フラれてもフラれても折れずに、前回の失敗を活かして次の女の子に向かえる胆力だ。
『彼女にしてもいい』と思える女の子を、機械的に探し続けるクールさだ。
たかがセックスのためにこれだけやるのという、邪魔なプライドを捨てる覚悟だ。
それらを全て揃えた上でようやく到達できるのが、童貞卒業という頂きなのだ──。
……ということを湊に力説したら、奴は首を傾げてこう言った。
「分かってんならやりゃいいじゃん?」
「正論は死ね!」
しばらくケンカした。おそらく人生で一番ムダな戦いだったと思う。
教室を出る頃にはすっかり日も暮れていて、俺は下駄箱でため息を漏らす。
「何をやってるんだ、俺は……」
分かってんならやりゃいいじゃん。そんなの言われなくても分かってる。
でも分かっててもできないことってあるじゃないかと、俺は情けなく叫びたくなる。
──なんで心ですることに、頭で考えた理論を当てはめなきゃならない?
──そもそも人を好きになるために努力が必要って、根本的に間違ってるだろ。
理想の恋に期待するのは悪いことなのか。運命的な出会いをして、自然に恋に落ちていって、もうこの人しかいないと互いに思える相手と手を繫ぎ、初めての夜を過ごす。
そんな恋に、俺は──。
『──……すまない。やはり私は、夜光のことを、男としては……』
「……くそっ」
また嫌なことを思い出した。
何回この負のループに嵌まれば気が済むんだ。いい加減進歩がなさすぎる。
これは対策を打つ必要があるだろうと、俺は天才と称される頭脳を回転させる。
「…………よし、解脱しよう。出家して僧になれば全て解決する!」
そうと決まれば早速修行だ。帰って般若心経を写経するところから始めよう。
俺は悟りの境地で下駄箱を開く。
ハートの封蠟がされたお手紙が一通、入っていた。
「──ありがとォぉおおおおおおお──────ッ!!!」
解脱? アホか。俺は純愛に生きてやる!
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