第3話 神ストロー(西城彩香視点)

 本屋を出た後。私、西城彩香と空はヌターバックスに来ています。

 この時期はイチゴの新作があり、私も気になっていたがそれ以上に空は新作がでたら必ず飲みに来るほどヌタバが好きでした。


 そのためここに来たわけですが……ただそれだけじゃ、もちろんない。

 ヌタバとは様々なカスタムがあり、今回はチョコを使ったカスタムが流行っていたわ。

 そして、こういう時はカスタムをしていない状態と、おすすめのカスタムをしている状態両方とも飲むと言うことは私は知っている。


 何が言いたいかって?

 そんなの単純よ。

 小学生の時から初ることないこの思い、そして理想。

 間接キスよ!

 勘違いしないでほしいのだけど、間接キスは初めてではないわ。

 初めては、十年前……私が水筒を忘れてしまった時だったの。

 体育の後、水筒を忘れてしまった私はそのことに気づかず水筒を探していたわ。

 もちろんなかったのだけれど、彼は水筒の蓋のコップになる部分に飲み物を入れてくれたの。


 それが初めての間接キス。

 その頃かしら、家も隣で保育園も一緒だった兄妹同然の彼を好きだと思ったのは。

 そこからはひどかったわ、間接キスを狙って動くようになったの。

 私は頭の良さを武器にして、数々の戦略を立て間接キスを実行してきたわ。

 今回もそう!


「私がカスタムなしの状態で買ってもいいわよ。そしたら空がカスタムすれば交換して味を比べられるし」

「ホントか?」

「ええ、私も両方飲んでみたいし」

「ありがてぇーヌタバっておいしいけど、学生にはちょっと高いからなぁ……二個買うの少しためらってたんだ」

「そうよね、二つ買ったら千円を超えてくるものね」

「そうなんだよなぁ……じゃあ、俺はおすすめのカスタムするからカスタムお願い!」

「わかったわ」


 我ながら完璧ね。

 後は商品を受け取って交換するだけだわ。

 商品を受け取り、私と空はカウンター席に座る。


「半分くらいで交換すればいいかしら?」

「そうだね、それぐらいにしようかな」


 まずは自分の買ったカスタムなしの方を飲む。


「あ、美味しいわこれ」

「こっちも美味しいよ」

「イチゴを使ったものであまり失敗しているのを見かけないけれど、ミルクの甘さとイチゴの甘酸っぱさが絶妙ね」

「こっちも更にチョコが入ることで、全体のまろやかな口当たりになってうまい」


 あっという間に半分飲んでしまい、交換することに。

 さぁ飲みなさい空。

 そして、飲む直前に間接キスだと気づいて悶えなさい。


「おぉ、確かにカスタムなしでも美味しいな! 素材の良さを活かすというかとりあえずうまい」

「なん、ですって……」


 間接キスに気づかない⁉

 確かに今までも気づいてなかったけど……もしかして、今回は飲み比べる事が嬉しすぎて気づいてないの⁉

 計算の範囲外だったわ……

 ならまぁいいかと、交換した物を飲もうとして私は手を止めた。

 その理由は紙ストローであったから。

 最近はどこも紙ストローになっていて、私も紙ストローを好きじゃないし反対している人間だったわ。

 味が落ちている気がするし、長時間放置しておくとふやけてしまうもの。


 でも今回だけは、いえこれからは紙ストロー肯定派になることを神に誓うわ。

 紙ストローの原材料は紙、水を吸い込み形が崩れてしまう紙。

 だがしかし、今回その部分が功を奏しているの。

 そう、プラスチックストローよりも唾液を多く含むということにッ!

 紙ならではの水を吸収する性質に、飲むという動作をすることによって口を付けた部分は唾液を吸収しふやけるの。


 更に、そのふやけたストローは飲んでいた者の歯型すら残りやすくなる。

 空は治ってきてはいるが、美味しいものを飲むとき癖でストローを噛む事があり、今回もそれのせいでストローはわずかに歪んでいるわ。

 これはもはや紙ストローなんかではなく、神ストローと呼ぶべき代物ッ!


 出来れば、何もせずストローだけ持ち帰って空コレクション記念の百個目として保管したいのだけれど……ここで私だけ飲まないのは不自然だし、かと言ってわざとストローを落として、新しい物を貰うのもしたくないのよね。


 わずか零点三秒の思考、しかし腕はその事実に気づいた瞬間震えてしまう。

 その時、私の座っている椅子が後ろに引っ張られる様な動きをする。

 腕が震える中で、突如として崩される姿勢。その結果手に持っていた飲み物がスローモーションで落ちていく。

 べちゃっと床に落ち中身がこぼれる。


「あ、あぁぁああぁぁ」

「すいませんお客様!」


 店員さんがモップで掃除している時に、椅子の足に当たったらしくそれで少し動いてしまったらしい。


「すいません。新しい物をお持ちしますね」

「……お願い、します」

「良かったね、新しいのに変えてくれるって」

「え、えぇ……そうね」


 うわぁぁぁぁああん! どのみち持って帰れなくなったぁ!

 この状態でゴミを持って帰ったら怪しまれるし、しかもストローが床に落ちちゃったぁ……

 私のストローが汚されちゃった……

 その後、定員さんに何度も謝られた後新しく飲み物を貰い私たちは帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る