第4話 バカ二人

 ショッピングモールから出た頃には、日が沈み辺りは暗くなり街灯がついている。

 家までは少し距離があるためもうそろそろゴールデンウィークなので、何をするか計画を立てる二人。


「どっか遠くに行きたいとかってあるのかしら」

「旅行って事だろ? 流石にお金の問題とかで行きづらくないか?」

「そうね……行くとしても日帰り、電車で行ける距離ならいいわね」

「山か海か……」

「この時期に海って……何しに行くのよ」

「海って言っても鎌倉とかだぞ、入ったりとかじゃない」

「何でそう海に行きたがるのかしら」

「我ら海なし県埼玉! 海に憧れるのは必然である」


 長期休暇などがあったら空は頻繁に海に行こうとするので、毎度おなじみのパターンかとあきれる彩香。

 でも実際、埼玉からでも日帰りで行ける距離ではあるし、観光としても楽しめる場所ではある。

 中学生の時に行ったこともあるが、時間もなかったので周りたい場所もあった。


「とりあえず、鎌倉は仮で考えておきましょうか」

「よっし」

「ただそうなってくると早めに課題やっておいた方がいいですよ」

「ゲッ……な、なんで?」

「長期休みは課題そこそこ出るのよ? やらない状態で鎌倉行っても課題がちらついて楽しくなくなるわ」

「く、クソが!」

「大丈夫よ、そうなったら私が教えるもの」

「マジでか! 助かるホントに!」


 空はお世辞にも勉強ができるわけではないが、彩香が教えてくるれるため何とかなっている。

 もちろん、二人で勉強する空間を作りたいと言う思惑があるが、空は課題が進む彩香は二人の空間を堪能できる。

 まさにウィンウィンと言うやつだ。

 そんな話をしているといつの間にか、二人は家の前に付く。


「じゃあ、それじゃあ」

「そうね。また明日」


 しかし、ドアノブを握って止まる。

 しばらくして、空と彩香は何かを決心し塀を挟み向かい合う。


「俺」「私」



「「好きな人が居るの――――え?」」



(ちょ、ちょっと待って! 私空に好きな人が居るなんて知らないわよ! どこのどいつよその女! 見つけ出して脅して空から離れてもらわないと……いえ、落ち着くのよ西城彩香。まだ私の可能性もあるはず)


「そ、空その好きな人ってどんな人なの?」

「そうだな……とてもかわいくて、たまに厳しいんだけどそれも完璧でありたいって目標のためにやってて、それでいて天然っぽいところがある所かな?」


 少し頬を赤くしながらはにかむ空。

 それを見てやはり空の好きな人は、自分じゃないと悟る彩香。


「そ、そっちこそ、好きな人ってどんな人なんだよ?」

「そうね、とてもかっこよくて、いつもは抜けてるんだけどここぞって時に頼りになって、そんなところが私は好きよ」


(うっわ、俺じゃないじゃねぇか! はっず、もしかしたら俺かもとか考えてたわ。フツメンでかっこよくないし、いつもふざけてるし、自意識過剰すぎて穴があったら入りたい……)


 空も涙ぐんで上を向き始める。


((で、でもこっから好感度を上げればワンチャンあるはず……))


「じゃ、じゃあお互いの好きな人を振り向かせるために。協力しましょう」

「そ、そうだな」

「じゃあ、本当にまた明日」

「あぁ、また明日……」


 もちろん自分の部屋に戻った二人は、枕に「好きな人って誰だよぉぉぉお!」と叫んだのは言うまでもない。


   *


『相手からの好感度が見えたらいいのに』

 もし見えていたらこの二人の様にはなっていないだろう。

 二人の好感度はお互いに百。なのにそれがデフォルトになり、現状をゼロだと思っていた。

 だからこそ、一回は玉砕覚悟の告白をしようとして、関係性が変わることを恐れ逃げた。

 ショッピングモールでは相手がドキッとすることをして、相手が自分をどう思っているのか確かめようとしたがお互いに失敗。

 そして最後。


『恋と戦争においてはあらゆる戦術が許されている』

 イギリスの劇作家、フレッチャーの名言であるこの言葉。

 実際、恋愛において数々の戦略が編み出されていた。

 古典的なラブレターから、先に想いを伝え意識させるなど、多種多様な戦略と実践により発展してきた一種の文化である。

 その一つにこんなものがある。


『私、好きな人が居るんだ』


 この言葉だけでは、ありふれたよくある相談。

 しかし、これを好きな人本人にしたらどうだろうか?

 好きな人に会えて名前を伏せて相談に乗ってもらうと言うポーズをしながら、いろんな場所いろんな話をしながら距離を縮め、もしかして……と思わせる。


 勝ちが確定した瞬間に、実は好きな人は君だったんだよ。と、ねたばらし晴れてお付き合いをする関係になるというものである。

 それをする分には問題はないが、この場合二人が同時にしてしまったことにより、お互いが別の人が好きだと勘違いしてしまったのである。


 でも仕方がない、学校では氷の女王と呼ばれ、主人公に対して少し変態的思考を持つ西城彩香。

 学校ではおちゃらけたキャラで人望が厚いが、西城彩香を一番知っていると自称する東城空の二人。

 好きな人と行動するときは変態じみた思考し、頭のネジが二、三本飛ぶ二人。



 そんなバカ二人でお送りするラブコメだからである。




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