第2話 perfect plan(東城空視点)

「にしても本屋で良かったの?」

「良いって言ってるだろ」


 その後、逃げるようにして俺、東城空と彩香は本屋に来ていた。

 彩香は何で本屋で良かったのか心配してるのかと言うと、俺が本を読むのが好きじゃないからである!


 読めば一分かからずに寝落ちしてしまう程に。

 だがしかし、俺とてバカではない。

 説明しよう! 俺のperfect planを!

 もう少しでゴールデンウィーク期間、そして彩香と言う人物を一番知っていると言ってもいい俺が導き出した計算。

 彩香はこの期間に学校の予習復習の為に参考書などを買う可能性がある。

 いや、断言してもいい絶対に買う。


 そしてこの書店の本棚の高さは、おおよそ2メートル30センチと言ったところだろう。

 参考資料などは背の高い本が多いため、それに合わせて本棚も少し高くなっている。

 彩香の身長は160.3センチ。だがこの場合、頭……仮に30センチを引いておく。

 すると、130.3センチ。大体腕が60センチ、合計190.3センチぎりぎり本棚の上段には手が届かない。

 更に棚の手前には、平積みするスペースがあるため実際に必要な身長はもう少し必要である。

 つまり何が言いたいかと言うと……

 自然な流れで代わりに取ってあげることが可能なのだ。

 何と完璧な作戦なんだろう。


「あ、参考書あったわ」

「そうか、俺がとって――」


 やるよ。

 そうかっこつけようとしたら、一番下の段にそれはあった。


「なん、だと……」

「どうかした?」

「いや、なんでもない……」


 か、完全にその可能性考慮してなかった!

 だ、だが切り替えんだ俺。

 漫画の新刊コーナーに向かう。

 一個目のperfect planはダメになってしまったが、二個目がある。


「そうだ、落ち着くんだ俺。計画は失敗することまで視野に入れていたはずだ」


 ここに来たのは、何も参考書を買う事だけを予想していたわけではない。

 彩香が読んでいる漫画『きみがすき』の発売日だからだ。

『きみがすき』と言う作品は現代の学園ラブコメでありながら、敵対する会社の両親を持つ高校生男女の恋愛模様を描いた作品である。

 少し前、偶々部屋に上がった時に本棚にこの漫画だけ全巻そろっているのを見かけたし、やたら新刊情報を検索したことも知っている。

 だから、この漫画を買うのは必然なのである。


「クックックッ」


 あまりにも完璧な作戦すぎて笑いが止まらない。

 しかし、それだけで終わる俺ではないのだ!

 更にこの漫画を何十周もし、数々の伏線、そこから書かれる今後のストーリー。

 すべての可能性を探し出し、話のネタとして昇華した。

 今の俺は、いわば作者とりも深く原作を知っていると言っても過言ではない!


「いや、流石に過言だな」


 だが、作者と同じくらい知っているはずだ。

 これをきっかけに話の流れを掴む!

 そして俺は『きみがすき』を手に取り、何気なく裏のあらすじを確認した。


「ロケットランチャー?」


 再度目を擦ってあらすじを確認するが、やはり学園ラブコメにあるはずのない単語はそこにあった。

 どういうことだ……俺が読んでいたのは学園ラブコメのはずだ。何故ロケットランチャーなんて物騒なものが出てくるんだ……


「空もその漫画読むのね……」

「あ、あぁ」


 いつの間にか来ていた彩香に合図地を打つが、あらすじの情報で冷静でいられない。


「あ、私の予想していた通りの展開になったわね」

「え、これを予想してたの⁉」

「この本の敵対してる理由が白身が好きか、黄身が好きかって話なんだけど」


 何それ……知らない。


「知らなかったって顔してるわね……それも仕方ないと思うわ。SNSで匂わせしてただけだもの、漫画だけじゃ知りえない情報よ」

「な、なんで白身と黄身で敵対してるんだよ……」

「元ネタは、奥さんと白身と黄身どっちが好きかで喧嘩したことが原因らしいわ」


 く、くだらねぇ……


「だから、タイトルは漢字じゃなくて平仮名なのよ。『黄身が好き』って事らしいわ」

「ダジャレかよ!」

「くだらないことを真面目にやってるのが、この作者さんだわ」


 何で彩香がドヤ顔しているんだろう。

 いやそんなところも可愛いな。

 それはそれとしてだ、なんか悔しい。

 原作をかなり読み込んでいたのに、彩香に負けたことがなんか悔しい。


「で、空はこの本買うの?」

「その予定だけど」

「なら、後で一冊上げるから買わなくていいわ」

「そういうことなら買わないけど、良いのか? 貰ちゃって」

「いいのよ。正直余ってるぐらいなの」


 本が余るとはどういうことだ?


「そもそも、今回の特装版だけで三冊あるし、それ以外にも布教用、保存用、読書用に分けてあるわ。だから、一冊貰ってくれる方が、こちらとしてもありがたいのよ」

「なら、お言葉に甘えて一冊貰うよ」

「それに、読んでくれたらまた話せるかもしれないと言うのもあるわ」


 彩香はボソッと付け足すようにつぶやくが、もちろん聞こえているわけで――

 またそうやって俺を喜ばせる!

 聞きましたか? 全世界の俺! この何気ない一言のアピールが可愛いんです!

 たまに来る垣間見える本音の部分がとてつもなく、好きで好きでたまらなく初めて恋を知った日を思い出す。


 それは忘れもしない十年前の体育の授業が終わった時だった。

 彩香はその日、水筒を忘れそれに気づいた俺は少しだけ分けてあげた。

 あの時も、ただ一言ぼそっと「ありがとう」と恥ずかしがりながらつぶやく彼女に恋をした。


 今でもたまに同じことをするのだが、成長してきれいになり美人と言う言葉が似合う彩香から放たれるソレはあの頃の破壊力を優に超えている。

 と、脳内採点で満点を取る破壊力を持った一言により、あらすじのロケットランチャーとか諸々どうでもよくなってしまった。

 その後は彩香が参考書を買い、本屋を後にした。

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