4話 悪夢が打ち砕かれる時

 皆と一緒に庇護地の破壊を進めていると、僕は明らかに特別感があるドーム状の研究所を見つけた。他の建物より少し離れた所にあり、ドーム状の部分に「Mars」と書いてある。


「アレが、クラーフの言っていた所……」

 僕はその建物を見るや否や、ボソリと呟いた。


『アタシ等が生まれた所は、Marsって書いてあるドーム状の研究所だ。何が何でも、そこは絶対破壊してくれ』

 クラーフの言葉が思い起こされ、破壊しなきゃと言う強い想いが足を前に前にと突き動かす。


「メア! レーザー砲、発射!」

 僕の張り上げた声に呼応し、直ぐさまカッとメアの口が開いた。

 びゅんっと飛ばされるレーザーが縦に入り込み、一拍遅れてドゴオンッと建物に爆炎が上がる……が。


「? !」

 晴れていく爆炎の中から現れる建物は、ピンピンしていた。


 壁が少しぱらついただけなんて、頑丈さが他に立ち並ぶ建物の比じゃない!


 僕はピピピッとパネルをタッチし、肩に装填されているミサイルを起動させた。

 ドドドッと勢いよく飛びかかり、ドゴオンッ、ドゴオンッと爆音が立て続けに弾ける。

 けれど、それでも駄目だった。黒炭がちょっと広がった位だ。


「もう二度と、苦しみ、悲しむ人を作らせない! だから絶対に諦めるもんか!」

 声を張り上げ、「メアッ!」と檄を飛ばす。


 ピピピッとリンクしている線が音を立て、光った刹那、僕の手の内にパッと現れた。僕のイメージ通りの物が。


 僕はそれを直ぐさま掴み、思いきり振り抜いた。

 ぐんっと遠心力も乗せられ、ハンマーのヘッドがぼこおんっと一直線に壁を穿つ。


 今日一番の爆音が荒々しく弾け、壁に衝撃波が勢いよく走った。

 その威力に耐えかねてか、壁がガラガラッと崩壊する。


 ……うん。なんやかんや言いつつも、原始的な力ってやっぱり重宝すべきだよっ!


 僕は「メア、このまま行くよ!」と声を張り上げ、大太鼓を打つ様に壁を破壊し始めた。


 ばごおんっ、どごおんっ。次々と荒々しい爆音が弾けるばかりか、ガラガラッと力に屈する音も奏でられる。


 そうして遂に、ドンッと壁が穿ち抜かれ、ドーム状の天井が大きく傾いた。

 その後は、もうなし崩しの様な形で雪崩れ始める。ドドドッと瓦礫の雨が内側に降り注いだ。


 ドンドンッと内側で爆発が起き、降り注ぐ瓦礫をも喰らわんと業火が広がる。

 でも、その業火は透き通った青や煌々と輝くオレンジと言った、よく知る炎の色じゃなかった。


 オレンジが闇に侵食された様な色で、火の手がゆらりゆらりと上がる度に黒が強くなっている。


 不気味な炎を前に、僕はゴクリと唾を飲んだ。

 するとメアの体にバチバチッと火の手が伸び、ジュッと熱を仄かに感じた。


 ……炎に見えないけれど。ちゃんと、燃えているんだ。

 飲み込んだ唾がゆっくりと嚥下されてから、僕は「メア」と名前を呼ぶ。


「これだけじゃ心配だから、もう一度レーザーとミサイルを放とう」

 呼びかける様に告げると、「レーザー砲、威力大に切り替え」と淡々とアナウンスがかかり、ガチャンガチャンッと機体に変化が走った。


 そしてドドドッと炎の中にミサイルが次々と撃ち込まれ、更にカッと大きく開いた口からビュンッとレーザー砲が放たれる。


 どごおんっ、ばこおんっと爆音が上がり、ゴウッと炎の勢いが増大した。

 どんどんと生まれる炎が元気よく喰らい続け、ガラガラッと頑丈だった建物も崩壊を進めていく。


 僕達の居る場所にも、その手はぶわっと伸びてきた。

 けど、それでも、僕達は崩壊した悪夢の前で佇んだ。

 この悪夢の終焉をキッチリと見届ける為に。

 そしてここでの辛苦が炎に溶け込み、光に昇華してくれるまで。僕達は、ずっと佇み続けた。




 強まる爆炎が鎮火される頃に、僕達子供に勝ち鬨があがった。

 そうして僕達庇護地破壊班が基地に引き上げ、クラーフと合流すると。デューアの本部はこの闇を何も知らなかった末席の大人とロボット以外、全員お縄に付いていた。(勿論、僕達を裏切った子供達も)


 なんと、クラーフ一人で本当に基地を制圧してしまったらしい。ゾーガ総帥を始めとする幹部の大人達の姿がどこにも見えなかったけれど、クラーフの笑顔を見ればなんとなく居場所が分かる気がした。


 クラーフは、心の底から晴れ晴れとした笑みで僕達を迎える。


「よう、ハジャ。こっちは見ての通りだが、そっちはどうだった?」

「やっぱり僕一人じゃ無理だったけれど、皆が居てくれたからね。ちゃんと晴らせたよ」

「流石じゃねぇか」

 クラーフはニコリと相好を崩し、グッと拳を突き出す。


 僕はその笑みにフッと顔を綻ばして、「クラーフ程じゃないよ」と、拳を突き出した。


「まぁ、アタシは特別だからな」

 ゴツンッと勝利の音が朗らかに弾ける。


 その音を聞いて……いや、目の前の可愛らしい微笑を見て、僕は思った。

 本当に僕達が勝って、この悪夢を終わりへと進ませられたんだって。

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