2話 ようやく皆の力になれる
戦士の誰もが知っているのに、誰一人として実態と場所を知らない、最終の地。庇護地はセクタ・ランドから少し離れた山間部に位置していた。
メアがドンッと降り立つと、すぐに後ろからもドンッドンッと味方のレイティアが降り立つ。
僕はタッチパネルを押して、「皆!」と声を張り上げた。
「作戦通り、庇護地破壊班と救護・避難班に分かれて動こう!」
「「「了解!」」」
答えが飛ぶや否や、僕達はそれぞれ割り振られた役目を全うすべくダッと素早く動き出す。
その時だった。
ぶわっ、ぶわっと何重にも黒色が重なり飛び、世界を真黒に染め上げる。
パパパッと一気にレーダーに現れる赤い点、レーダー状に幾つもあがる黒度の数字。
ナイトメアが現れた、なんて言わないでも分かる。
僕が小さく息を飲むと同時に、ぞわぞわっと四方からナイトメアが現れた。
一体だけじゃない、次から次へと数が増えている。その中には黒度が一万越えの人型も居れば、黒度が十レベルの低級ナイトメアも存在していた。
「……本部の異変を感じて、悪あがきとして放ってきたのかな」
僕がボソリと独りごちると、コックピット内に「ハジャ!」と救護・避難班の一人であるカナエから切羽詰まった声が貫く。
同じ班であるブルーノからも「コイツはやべぇぞ」と、戦々恐々と呟かれた。
僕はその声にハッとしてから、「大丈夫」ときっぱりと答える。
「黒度が高い奴は、僕とメアが相手をする。他のレベルが低い奴等は、申し訳ないけど、お願いしたい」
僕の言葉に、会話を繋げている同班のメンバーから「分かった!」「了解!」と力強い応答が返された。
すると「ハジャ、貴方一人だけでやるなんて」と、憂慮でいっぱいの声が飛ぶ。
そんな優しさを差し込んでくれたのは、誰かなんて考える間でもない。
僕は「大丈夫だよ、カナエ」と、カナエの顔が映る画面に向かって告げた。
「今の僕は皆の力になれる。ようやく、悪夢と言う邪悪を晴らせる
「……ハジャ」
僕は涙ぐみそうなカナエの顔に向かって、柔らかく相好を崩す。
するとカナエはキュッと唇を結び直し「分かったわ」と、毅然と告げた。
「
「うん、頼むね」
互いにコクリと力強く頷くと、フッと連絡画面が消える。
僕はふうっと小さく息を吐き出して、意識を眼前に集中させた。
それと同時に、黒度の高いナイトメア達がゆらりゆらりと動き出し、対峙する僕に向かって戦意をバチバチとぶつけてくる。
「やるぞ、メアッ!」
『ウン、ヤロウ』
僕の頭の中に、どこからともなく生まれた言葉がゆらんと溶けた。
刹那、メアはバッと影に沈み込む。
いつもみたいに、一対一じゃないんだ。一気に次々と飛びかかっていかなくちゃ、他に被害がいく!
素早く、相手の核を穿たなきゃ駄目だ!
リンクしているからこそ、僕の考えがメアに伝わったのか。グッと機体のスピードが上がり、手にシュッと細い棒が現れる感覚がした。
僕はそれを素早く掴み、ぐんぐんと加速する勢いに乗せて放つ。
ナイトメアの正体が分かっているからこそ、核を穿つ事に躊躇はある。でも、ここで止めてあげないと、ナイトメアにさせられた子はいつまでも悪夢に縛り続けられているのだ。
だから可哀想でも、穿ち抜かなきゃいけない。終わらせてあげないと、いけないんだ。
……僕の放った槍の刃が、グサリと核を貫く。
「ギャアアアッ!」
ナイトメアの絶叫と共に、僕達は表の世界に飛び出す。
そして一体目の悪夢を晴らすや否や、その勢いのまま僕は次々と襲いかかってくるナイトメアと対峙した。
悲鳴をあげながら飛びかかってくるナイトメアを投げ払い、ドシンッと倒れ込むと同時に相手の核に向かってドスッと刃を放つ。
クラーフに付けられ続けていた体術が生きている! クラーフのおかげで、多対一でも凌げられているよっ!
僕は彼女が仕込み続けた強さに手応えを感じながら、シュルッと強い勢いでやってきた鞭の様な攻撃をバシッと受ける。ブースターの噴射を使って押し負けない様に踏ん張っていると、頭の中にイメージが走った。
無数の剣の雨が降り注ぎ、ナイトメアを一体一体串刺しにするイメージが。
リンクしている線からピピッと甲高い音が発せられた。
刹那、大刀の様な大きさの刃がパパパッとどこからともなく虚空に現れ、ドドドッと次々と降り注いでいく。
僕が攻撃を受け止めているナイトメアも、その刃の雨に打たれ、「ギャアアアッ!」と悲鳴をあげて倒れ込んだ……が。
突如、視界いっぱいに黒が広がり、ドンッと大きくメアの機体が揺れた。そして
「うわああっ!」
僕の悲鳴が弾け、ビービーッと異常を知らせるアラートが走る。
急いでゴーグルに映る状況を確認すると、顔にナイトメアの攻撃を喰らったと分かった。
それで体勢が崩れたんだ……でも、これはマズい!
僕がじわりと危機を感じると、「ギャウウウッ!」と甲高い奇声が身近であがり、ドンドンッと身体に鈍痛が走る。
僕の口から更に悲鳴が飛び出し、ビービーッと唸るアラートも甲高くなった。
四方から次々と攻撃されているんだ、早くこの状態を脱しないと……!
コックピットが真っ赤な色に染まり、「手腕装甲、破壊大」「コックピット装甲、破損」「精神攻撃を確認」とアナウンスが淡々と危機を述べだす。
バチバチッとコックピット内部に火花が迸り、リンクしている線とは別の所から得体の知れないナニカが侵略する感覚に陥った、その時だ。
『ディード、ダウン』
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