10.5話 大人側の決定
「よく話してくれたな」
ゾーガはむっつりとした面持ちで、終始怖々とした口調で語った女の子三人、ウェルティとリーリエ、そしてハナを見渡した。
「あの、これで、私達が怒られる、とかは」
ウェルティが他二人を代表して、恐る恐る尋ねる。
「無論、その様な事はない。怒られるべきは、君達を悪行へと唆した子等だ」
ゾーガはきっぱりと答えてから、三人の女の子達に「行きたまえ」と退出を促した。
ウェルティ達は「は、はい」と敬礼をしてから、そそくさと部屋を出て行く。
「これで、密告者は十を超えましたわね」
円卓の左端に座る、子供管理部部長のオリヴィアが丸眼鏡を押し上げて言った。
「とうとう、クラーフが我々に牙を向けますか」
円卓の右端に座る、ナイトメア討伐部のレイリーがむっつりとした顔の前で手を組む。
「だから私は申し上げたのですぞ! 成功体とは言え、あまり好き勝手をさせてはいけないと! あやつが我らの悪夢になりかねないと!」
ゾーガの左隣に座る、子供教育部のキムが憤慨して告げる。老齢ながらも、キリッと精悍な面持ちと凄みのある覇気は相も変わらずだ。
「いやぁ、あの子の事だぁ。遅かれ早かれ、こうなっていたんじゃないですかねぇ」
ゾーガの右隣に座る、ナイトメア研究部のシュリムがのんびりとした口調で言う。
「多分、メア機を着手した頃からその心を持ち始めたんじゃないかなぁ。なんでだかは分からないけどぉ、確かその頃から力の接種と抑制訓練が凄まじかったからぁ。まぁでもそのおかげで、今やあの子は最強のナイトメアですよぉ」
「何を呑気に言っているのだ! 馬鹿馬鹿しい!」
キムがグッと身体を前のめりにし、のんびりと話す対の存在に噛みつく。
「分かっているのか、そんな存在が我らに牙を向けようとしているのだぞ!」
ダンッと荒々しく机を打ち、まるで対岸の火事の様に構えているシュリムを「大体お前達が、キチンと制御しないからこうなるのじゃないのか!」と非難した。
「僕達のせいなんてとんでもないなぁ。僕達は総帥が望む戦力を作るまでが仕事、あの子の教育はおたくの仕事でしょお?」
シュリムがやれやれと言わんばかりに返すと、キムは「何だと!」とガタンッと荒々しくいきり立った。
飄々とするシュリムに、掴みかからんばかりの勢いであったが。「辞めよ」と、物々しい一言が飛び、彼等の諍いは一瞬にして鎮圧された。
彼等はビクリと強張ると、ばつが悪い面持ちでゾーガを窺った。
ゾーガはそんな彼等の視線を歯牙にもかけずに「奴の狙いは分かったのだ」と、物々しく言葉を紡ぐ。
「我々は、十三日よりも前に行動する。そこであの子等を徹底的に叩くのだ、二度と蜂起出来ぬ位にな」
きっぱりと下した決断に、周囲の幹部等はゴクリと息を飲んだ。
「……遂に、あの成功体を破壊するのですか?」
オリヴィアが恐る恐ると言う風に問いかける。
するとゾーガは「いや」ときっぱりと首を振った。
「我らにとって、アレを破壊する利益よりも損害の方が大きい事は明白。だから破壊はせん、寸前まで追い込むのだ」
力強く放たれた宣誓に、シュリムが「寸前、ですかぁ」とポリポリと頭を小さく掻いて言う。
それは厳しい事だと言外に申し入れるシュリムに、ゾーガは「出来なくはないだろう」と物々しく言い放ち、ギロリと睨めつけた。
「アレが企む全てを粉々にへし折ってやってから、我々に百パーセント恭順的なナイトメアに作り替えてやれば良いのだ。幾らでも方法はある。その為の先手として、奴の決起日よりも前に我々が動くのだ」
ゾーガはトントンと指先で机を叩きながら吐き捨てる。
シュリムは「承知しましたよぉ」と、弱々しく白旗をあげて引き下がるしかなかった。
「他に、異論のある者は」
周りを見渡して、ぶっきらぼうに尋ねるゾーガ。
そんな彼に異論をぶつける者は、誰一人としていなかった。
つまりハジャ達子供が決起を誓い、計画を企てた様に、大人側も決まったのである。
大人に刃向かう悪い子供を須く迎合し、完膚なきまでに叩きのめす、と。
「思い上がった子供に、我々大人の力を思い知らせるのだ。良いな」
ゾーガの結びに、各々がコクリと頷いた。
その時だった。
「そうだよなぁ、そうだよなぁ!」
朗々としていながらも高圧的な声が、突然、どこからともなく貫いた。
この場に居る大人にとっては、聞き馴染みがあり、誰かと問わずともすぐに分かる存在の声。
「クラーフ」
オリヴィアがボソリと、声の主の名を呼んだ。
するとドンッと大地が大きく揺れ動き、ぶわっと暗黒が場を支配する。
光が、瞬く間に消えていく。
「アタシが動くとなれば、当然そう動くよなぁ! 愛しのパパ・ママ共よぉ!」
クラーフの声が幾重にも響き渡ると、どろりどろりと暗黒世界の血が滴り、幾つもの悲鳴が飛び交い始めた。
「これは……!」
「ディードダウンだ! こりゃあ、マズいぞっ!」
レイリーとシュリムが事の状況を直ぐさま理解し、悲痛な声を上げてバッと動く。
刹那、彼等の座っていた場がガクンッと大きく揺れた。いや、場を作り変えられたのだ。
まるで処刑台の様な舞台が構築される。
一人一人ががっちりと黒い板に張り付けられ、枷で自由を奪われる。身をよじっても、悲鳴をあげても、彼等は逃れられなかった。
この時点で、デューアの幹部達は先手どころか、為す術までも奪われたのである。
「クソッ!」
ゾーガが猛々しく唾棄すると、しゅるんっと舞台の黒から一体のナイトメアが現れた。
人の形を取っていながらも、人ではない。彼女を覆う負の念が禍々しくゆらりゆらりと歪んでいた。
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