3話 偽物は本物には勝てない(2)
「だって、家族が居る! 会いたいと願っている旦那が、子供が、居るじゃないか! アンタ、いつも会いたいって願ってるだろ! いつも夢に見てるだろ!」
だから駄目なんだ! と、声を荒げて訴える。
「アタシはそんな存在いないから問題ない。でも、ここでアンタが機体に成ってみろ! 会いたいと願っている家族に二度と会えなくなるんだぞ! もう二度と、子供に会える可能性がなくなるって事なんだぞ!」
ミエイさんの瞳がぐらりと大きく揺らいだ。
アタシは「もう一押しだ」と言わんばかりに、「今はまだ、会える可能性が残ってる」と説得を重ねる。
「アタシが機体に成った事をきっかけに何か事態が動くかもしれねぇ。つまりミエイさんが子供に会えるかもしれねぇって事だよ。もう直、三歳になるんだろ? 子供の方も、ミエイさんに、母親に会いたいと思ってる年頃じゃねぇか。だからアンタは、こんなクソみてぇな所で終わっちゃ駄目なんだよ」
ミエイさんの手に手を伸ばし、ギュッと彼女の温かい手を両手で強く抱きしめた。
「生きて子供に、旦那に、アンタの本物の家族に会ってくれよ」
「貴女だって、私の本物の家族よ」
ミエイさんはアタシの指の隙間から指を絡め、アタシの手をギュッと握りしめる。
そしてまっすぐアタシを射抜いて、「クラーフ」とアタシの名をきっぱりとした声で呼んだ。
「貴女は私の妹。だから」
「嗚呼、アンタは私の姉だよ」
アタシはミエイさんの言葉を遮って、力強く言った。ただ、その後に続くはずのもう一言が続いていない。
でも、本物の家族には勝てねぇよ……その言葉だけが、グッと喉元に詰まっていた。
アタシはキュッと唇を結び、詰まった言葉をゴクンと大きく嚥下する。
そして「自分の心に何かを戻した」と、ミエイさんに察されない様に「だからこそ」と淡々と言葉を継いだ。
……でも、まだ弱音は下に戻ってくれない。
アタシは少し間を置くと同時に、ただ、ジッとまっすぐ彼女を見据えた。
そうして弱音が心に落ちたと分かると、アタシはもう一度「だからこそ」と紡ぎ直す。
「ミエイさんに生きて欲しいんだ」
「……クラーフ」
ミエイさんの目からじわりと涙が現れる。
ふるふると縁で震えていたが。後ろから来る勢いに押されてポロリ、ポロリと滴り落ち始めた。
その涙につられて、アタシの視界もじわりじわりと歪みだす。
アタシは「な、泣くなよ」と、苦しげに言ってからニマッと笑顔を見せた。
「心配しないでくれよ、ミエイさん。アタシの細胞キットを軸に、アイツ等はアタシのクローンを作って、また新たなクラーフを作ると思うぜ。だからまた、新しいクラーフを可愛がってくれよな」
約束だぜ? なんて、笑い飛ばしたつもりなのに。その声が震えてしまった。
自分でも分かる位だったからだろう。突然ミエイさんが、ガバッと大きくアタシに抱きつき、ぎゅううっと力いっぱい抱きしめた。
「クローンは貴女じゃない。私の妹はクラーフ、貴女だけよ」
ミエイさんはアタシの耳元できっぱりと告げる。
「愛しているわ、クラーフ。ずっとずっと、愛しているから」
その声に、その温かい優しさに、その深い愛情に、アタシの心はいっぱいになった。
……もうこれだけでアタシはずっと、ずっと生きていける。どんな形になっても、どんな事になっても、アタシはこれだけで生きていけるんだ。
ミエイさん。アタシ、本当にアンタに会えて良かったよ。
「ありがとう、ミエイさん」
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