8話 ハジャの決意
「お前さぁ」
突然、僕の背後からぶっきらぼうな声が飛ぶ。
「なんでなの? って言う視線をメアにぶつけすぎ」
事あるごとにそうしてるから、直にメアの顔に穴が空いちまうぜ。と、クラーフは大仰に肩を竦めて隣に立った。
僕は「そう、かな?」と小さく苦笑を零してから、スッとメアに向き直る。
「あれから、ずっと考えちゃうんだよね……どうして、僕はあんな風にならずに乗れるんだろう。レイティアの時は戦えなかった僕が、メアとなら戦えるのはどうしてなんだろうって」
「誰でも乗れる訳じゃねぇって言ったろ」
クラーフはぶっきらぼうに打ち返す。
僕はその返しに「そう、分かってたつもりだけど……」と、弱々しく答えてから「クラーフ」と、彼女の名を呼んだ。
そしてゆっくりと視線をクラーフの顔へと移す。
「まだ、僕は教えるに足らない存在かな?」
弱々しくも、最後まで言葉を紡ぎ、彼女に届けた。
届いても落とされてしまうかもしれない。ポンッと別の所に放られてしまうかもしれない。
僕はキュッと唇を結んで、クラーフを見据えた。
クラーフは小さく息を吐き出す。そして僕の視線からスッと逃れる様にして、メアを見つめた。
……やっぱり、駄目か。
僕が肩を落としそうになった、その時だった。
「もうすぐ一年が経つからなぁ」
クラーフが静かに吐き出す。
僕は彼女の言葉にハッとして、彼女にパッと目を向けた。
クラーフはメアの顔を見つめたまま「出会った頃に比べたら」と、僕に向けて言葉を紡ぎ続ける。
「ハジャは色々と頑張ってるし、めざましいとは言えずとも確かに成長してる。だから話をしてやっても良いなと思えるレベルにはなったよ」
「じゃ、じゃあ!」
「けど、心が弱っちいままだから駄目だ」
一気に溢れた期待が、急速に萎んで消えてしまった。
僕は「心が駄目って事?」と落ち込みながら繰り返す。
クラーフは「そうだ」と力強く頷き、メアを見つめ続けていた瞳を僕へと移した。
彼女の瞳に、僕だけがしっかりと捉えられる。
「せめて、すぐに自分を卑下しない心になれ。そうなれたら絶対に教えてやる」
約束だ。と、彼女はスッと小指を立ててグッと突き出した。
初めてクラーフから具体的な到達点を提示されたばかりか、いつもの曖昧な言葉では現れる事がない「絶対」と言う確証。
いつもとは違う約束に、僕はクラーフをまっすぐ射抜く。
そして「分かった」と頷いてから、彼女の小指に自分の小指を軽く絡ませる。
「約束ね」
「あぁ」
絡み合った小指同士が、上下に力強く振られた。
もっと頑張ろう。
もっと自分が、強くなろう。
クラーフとメアが応えてくれるまでに、強くなろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます