2話 これは、レイティアじゃ無理だ(2)

 これはナイトメアの内側に沈み込んだ証だ。ここでうだうだとしていたら、内部攻撃でやられる!

 

『カク、ウガツ、イソグ』

 どこかから生まれて、すぐに脳内に溶け込む言葉。


 僕は自分の言葉と成った台詞に応える様にして、「モード豪速!」と声を張り上げた。


 するとドンッとメーターが右に大きく振られて、急上昇する。

 メアはぐんぐんとジェット機の様に進み、ナイトメアの核に迫った。

 そしてレーダー上に映る赤い点と同じ様に、メアの視界から赤色の歪な玉が現れる。


 あれがナイトメアの核だ! このまま行って、槍で貫く!


 イメージするや否や、手に重みが乗る。

 僕はそれを無意識にギュッと握りしめ、「うおおおおっ!」と雄叫びをあげてグッと突き出した。


 僕の突き出した槍の刃が、ドスッと歪な球体の中央を貫く。


「ギャアアアアアッ!」

 大絶叫と共に、沈み込んでいた世界が大きく揺れ動きだした。

 刃が貫いた核もボロボロッと瓦解し始める。


 僕は急いで上昇し、ドンッと影の世界から飛び出した。

 ずうんっとメアが荒々しい着地を決めると、目の前のナイトメアが崩壊していた。生を必死に保とうとのたうちながらも、その身体は維持出来ずに、ボロボロッと急速に瓦解していく。


「よし、倒せたぞ!」

 今回も勝利を掴んだ事に微笑み、喜びを吐き出した。


 その時だった。


「マダ、タタカエルノ」


 ……え?

 ナイトメアの口辺りから発せられた言葉に、僕は愕然としてしまう。


 今、って言った? よね? 


 僕は唖然としてしまうけれど。ナイトメアの口からは「ウアア」と苦しげで悲しげな響きを持った呻き声ばかりが発せられていた。


 ……僕の聞き間違いだった?


「うん、そうかもしれない」

 と、小さく独りごち、結論づける……が。


「ワタシ、マダ、タタカエルノヨォ。ホントダヨォ」

 悲しげな独り言が、再びナイトメアから発せられる。


 やっぱりそうだ。聞き間違いなんてものじゃない。これは、あのナイトメアの言葉だ。

 でも、戦えると訴えるナイトメアの身体は、もう戦える状態にない。瓦解が進み、悪夢の終わりを迎えようとしていた。


「……やだよぉ、やだよぉ」

 弱々しく紡がれた一言を最期に、悪夢が晴れる。


 視界も、世界も、晴れ晴れと麗らかな日差しに包まれ始めた。


 けれど、僕の心は晴れなかった。

 始めに怖いよ、怖いよって言っていた時よりも……最期に紡がれていた声は「人間の女の子」っぽかった。そこに滲み出ていた感情も、悲しいものが確かにあった。


 ……引っかかる。あのナイトメアが。


 僕はキュッと唇を結び、ナイトメアが存在していた場所を見つめた。


 もう黒はない。

 ただ一点、僕の心という場所を除いては。

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