第7話 メアと共に駆ける

 メア機一号と共に一歩を踏み出した僕だった……けれど。


「コレ、どうなってるんだよ!」

 僕は悲痛な声をあげて、この「陥ってしまった状態」の確認に走っていた。


 一歩を踏み出した瞬間、メアの機体がゆっくりと下に沈んだのだ。


 どういう訳でとか、どうしてとかは、こっちが知りたい!

 真っ黒の世界だ。鮮やかに色づいているはずの建物や草花も、薄い黒一色に染まっている。


 メア機の異常かと思ったけれど、異常と言う訳じゃないらしい。


 じゃあ、これは一体……?

 僕が静かに思考を巡らせた、その時だった。


『ススンデ、ダイジョウブ』

 優しく囁く様にして、突然脳内に言葉が走る。


 僕はその言葉にハッとするけれど、その言葉は残る事無く、すぐに自分の思考の中へと溶け消えてしまった。


 進んで大丈夫。

 僕は止めていた足をゆっくりと前に踏み出した。すると闇の中をメア機がふわんっとした一歩を刻む。


 そうか、このメアは闇の中……影の中を移動出来るんだ。

「クラーフが闇のレイティアって言っていたのは、そういう事なのかな」

 僕はボソリと呟いてから、レーダーに映るナイトメア出現地を確認する。


「黒度四千十三、結構力の強いナイトメアだ……迎撃している部隊は」

 ピッピッと手元のタッチパネルを操作して確認すると、僕はハッと息を飲んだ。


「C―A881、カナエ達の班じゃないか!」

 確かに、カナエ達は出撃準備に向かっていたけれど。まさか自分が向かっているナイトメアの迎撃チームがカナエ達の事だったなんて!


「急いで向かわなくちゃ!」

 焦ると共に、フッと頭の中で「加速モード」が思い浮かんだ。


 するとピピッとコックピット内に小さく甲高い音が弾け、「ナイトメア出現地まで加速します」と、端的な声が告げる。


 そして「加速まで、五秒前。四、三」とカウントダウンが入り、ゴーグルに映るメアの全身図が変化し始めた。

 足部分がカタタタッと小さく収納され、背中の部分から翼がジャキッと現れる。

「一」

 カウントダウンが終わりを告げた、刹那。ドンッとメアの機体が加速し、目の前に広がっている闇をぐんぐんと斬り裂く様に進んで行く。

「わっ!」

 衝撃に大きく身体が揺れ、僕の口から素っ頓狂な一言が飛び出してしまう。

 けれど、そんな一言を超える大声がすぐに弾けた。


「凄い、凄いぞっ!」

 揺れ動く衝撃よりも力強く、長く続く大歓喜。


 リンクが切れない所か、スムーズに僕の考えがリンクした! メアとなら、初めて戦場で役に立てるかもしれないぞ!


 進んでいるのは闇の中で、視界も辺りも真っ暗だったけれど。それでも僕は、確かな光明を感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る