第6話 メア機一号、出撃

 開いたコックピットに、意を決して、ゆっくりと乗り込む。


 色が黒と赤なだけで、レイティアと同じ作りだ。

 僕はそんな事を思いながら置いてあるヘルメットとグローブを填めて、開いたコックピットを閉ざす。


 ぶうんっと物々しい音が響いて、目の前の世界が明るくなった。

 訓練のバーチャルと同じ様に視界が開かれ、メアが映す世界が目の前に大きく広がる。訓練室にある物よりもクリアで、操作盤で何かをやるクラーフの豆粒姿もしっかりと映っていた。


「生体読み込み完了。生体異常なし……メアリンクを接続します、接続中……メアリンク完了。回路良好、生体異常値なし。機体、生体、共に良好です」

 機械の女性が淡々と告げる声がコックピット内に響く。


「……レイティアとの違いが分からないなぁ」

 ボソッと独りごちた、その時だった。

「どうだ、ハジャ」

 模擬戦闘をしていた時の様に、クラーフの声が貫く。


「どうも何も、別に問題ないよ? 普通だよ?」

「それは良かった!」

 ……なんだか、やたら上機嫌な声で返された気がするけど。何だろう、何かあるのかな?


 彼女の声に些か不気味なものを感じていると、「ちょっと試しで右手上げてみ」と先を促されてしまった。


 彼女の真意に辿り付けないまま、僕は言われた通りに右手を小さく上げてみる。

 すると僕の動きとリンクして、メアの右手が小さく上がった。


「よしよし、完璧なリンク具合だな」

 まぁ、当たり前か。と、上機嫌なクラーフの声がコックピット内に朗々と響く。


 当たり前? と、僕は少し怪訝に思いながらも「まだ分からないよ」と、彼女の声がするフレームに向かって声をかけた。


「いつも、ナイトメアと戦う時にリンクが切れちゃうんだから」

「そうなるかどうか、いっちょやってみっか!」

「……?」

 元気よく弾けた声に、僕は抱いた怪訝を露わにしてしまう。


 その時だった、ガシャンッとメアの機体が大きく揺れ動いた。

 シューッと機体が滑らかに後ろに引っ張られ、ガクンッと大きく揺れて止まる。


 これは僕が動いた訳じゃないぞ。つまり……いや、まさか、だよね。

 血の気が失せていくと同時に「右足プラグ、解放。左足プラグ、解放」と、淡々と機械音声が告げる。


 嗚呼、やっぱり出撃準備に入ってる!


 僕はそうと気がつく否や「クラーフ!」と、切羽詰まった声を張り上げた。

「駄目だよ!」

「安心しろよ。今丁度、近くでナイトメアとデューアの部隊がドンパチやってっから!」

 クラーフは僕の悲鳴を無視したばかりか、とんちんかんに僕を宥める。

「絶対に怒られるよ!」

「アタシもサポートしてやっから、大丈夫だよ!」

「そうじゃなくて、これは本当に駄目だって!」

 一向に聞く耳持たないクラーフに悲鳴混じりで訴えると同時に、「メア機一号ゲート、開放」と甲高いアラートと共に物々しい声が外で大体的に発せられる。


 嗚呼、まずい。まずいよ。このままだと、本当に出撃しちゃうよ。

 僕の焦燥が本格的なゾーンへと突入した、その時だった。


「クラーフ! 何をしている!」

 クラーフとの通話フレームから、大人の怒鳴り声が貫いてきた。


 すると「ハジャ」と、クラーフの声が覆い被さる様に続く。


「アタシもすぐ行く。だからお前は先に行け」

「で、でも」

「その機体は、絶対に応える。どう戦えば良いだなんだ、うだうだと考えなくても、自分の様に動く」

 クラーフはそれだけ口早に告げると、ブチッと会話の線を切断した。


 ……クラーフは、何の根拠があってそんな確信めいた事を言えるのだろう。


「本当に、自分の様に動ける?」

 ボソリと呟き、メアと繋がった手足に目を落とした。

「君となら、ナイトメアと戦える様になる?」

 投げかける様に独り言つ。


 するとメアが応える様に、俯いた視界の上からパーッと光が差し込んだ。

「メア機一号、出撃」

 警告音と共に、女性の機械音声がきっぱりと告げる。


 僕は意を決して、足を踏み出した。

 その一歩と連動して、メアが大地に一歩目を刻んだのだった。

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