quick&rob(ver勇次)
「このガキがっ」
筧は奥歯をギリっと噛みー
「お前の役目はとっくに終わってたんだ。
さっさとどこへでも逃げときゃ
よかったんだよ!」
怒りの目で数メートル前に立つ勇次を睨んだ。 「そうはいかない」
勇次はそう言うと、使えなくなった
100円ライターを 筧の足元に放りー
「賢君とお母さんを傷つけたのは絶対に
許せない」
力強く言った。 筧は100円ライターに
目をやると 口の端を歪めた。そういう事か。
「じゃあどうすんだ?俺を殺るってのか?」
「俺にそんな事は出来ない。 ただ、あんたにも
罰を受けてもらう」
「罰?どうやって?俺とお前しかいねえのに
どうやって?」
「・・・・」
「確かにお前に身代金強奪を実行させたのは
俺たちー」
・・・・筧はきつく唇を噛んだ。
「?」
勇次は筧の変化に目を留めた。
筧は改めて勇次を睨みつける。
「ー俺たちだが、逃げるのはお前だけなんだよ。 言ったろ?真実なんか何も役に立たねえんだ」 「・・・・俺も、真実なんかどうでも
よくなった」
「あ?じゃあ、やっぱこれは要らねえよな」
そう言うと、筧はブルゾンのポケットに手を
突っ込み 勇次から奪ったガラケーを取り出した。 「買取だ」
勇次が言った。
「あ?お前が買うってのか?」
「違う。あんたバカか?」
少し上ずった声で勇次が挑発した。 「!?・・・・おい、誰に言ってんだ?」
筧の眉間に縦の皺が走る。
「あんたが買い取るんだ」
「やっぱお前の方が馬鹿だ。今の状況
わかってんのか? 金も携帯も持ってんのは俺だ。 力づくで来ようったって、てめぇみてえな
若造に俺がやられると思うか?」
「・・・・やってみろ」
勇次は息を呑んで言った。 筧の眼が凄みを
帯びる。
「・・・・じゃあ、てめぇを半年は立ち上がれ
ねぇ位に痛めつけてやる」
筧はそう言って左手に持っていたバッグを
地面に落とすと一歩踏み出した。
「!!」
勇次は一気に駆け出した。
筧ーではなく、バッグ目掛けて。
上体を屈め、バッグに手を伸ばす。
「てめぇっ!!」
不意を突かれたが、筧はすかさず勇次の襟首を掴んだ。
と同時に勇次もバッグを掴む。
「ぐふぅっ!」
筧の左膝が勇次の脇腹に入った。 激痛だった。たまらず両膝を地面につく。だがバッグは
手放さなかった。
「バカ野郎が」
筧は笑いながら勇次の髪の毛を鷲掴みにし
強引に立たせようとした。
その時ー 勇次はバッグのジッパーに手を掛け、 闇雲に振り回した。 ジッパーは完全に
開き切らなかったが、 バッグから二つのレンガと十数枚の札が宙に飛び出した。
「!!?なにっ!!」
筧が金に気を取られた隙に、勇次は自分の髪を掴んでいた手を振り払い踵を返すと駆け出した。
バッグを 持ったまま。 筧は遠くの地面に
散らばった金と遠ざかっていく勇次の背中を
交互に見て躊躇しー
「野郎っ!待て、クソがぁぁぁっ!!」
やがて、勇次が持っているバッグを優先し、
右足を引き摺りながらその後を追い出した。
ついて来た! 勇次は走った。脇腹が痛い。
だが、必死に走った。
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