まだやりきってない
「もっとスピード出ねぇのか!?」
助手席の鉄男が言った。
「無茶言うなよ!タイヤ、パンク
してんだぜ!?」
鉄男の隣、ハンドルを握る直也がヤケクソで
返す。
右前輪がパンクしたハイエースはエンジン音に 歪な音を交えながら逃亡したシボレーを
遅々と追っていた。
「あの野郎、マジでぶっ殺してやる」
直也が息巻いた。
鉄男も同じ気持ちだった。背後をこなしー
「お前は降りろ」
後部座席の勇次に言った。
「え?」
「こっからは俺らでやる。お前はその辺で
休んどけ」
筧に殴られた左のこめかみから目尻に掛けて
血が出ていた。 勇次は拳でそれを拭った。
まだだ。 だがー頭がまだクラクラする。
「お前はあいつに自白させた。やるべき事やったんだろ? 今度は、俺らがやるべき事をやる」
鉄男が言った。
「でも!ー」
勇次は食い下がろうとした。俺はまだー
「こっからはもっとアブなくなるから
言ってんだ!」
「え?」
鉄男の言い方に、勇次は”親身”を感じた。
何も言えなくなった。
「鉄ニイ?」
直也が茶化す様に兄を見た。
「・・・・んだよ?」
弟の額を鉄男は叩いた。
「痛あぁっ!」
直也が額を擦っていると前方から三発、銃声が響いた。 フロントガラスの向こう、音の主の姿は見えない。まだ遠くだ。 野郎に違いねぇ。
「停めろ」
鉄男は直也に言い、ハイエースを停めさせた。
「あの、俺のスマホ返してもらう事は出来ますか?」
ハイエースを降りた勇次が鉄男に言った。 「?・・・・もう用はねぇし。ほらよ」
鉄男は助手席の窓からスマホを差し出した。 「ありがとうございます」
勇次が受け取ると、ハイエースは銃声のした方へ走り出した。
「・・・・」
ハイエースが見えなくなると、 スマホのアプリでmapを開いた。 ここは何処だ?
まだやり切ってないんだ、俺は。
スマホ画面はすぐに今、自分がいる場所を
教えてくれた。『潮見児童公園』。そのすぐ傍
だった。 勇次はハイエースの後を追う様に
歩き出した。
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