最悪の逃走
突然、背中に男の声が掛かり勇次の身体が
硬直した。心臓がバクバクする。
不自然には出来ない。
勇次は出来るだけ自然に 振り返った。。。
でも、上手くいってるかはわからなかった。
目の前に30代?のイケメンがいた。
80年代の映画だったか?つい前には続編も
創られた、映画をあまり見ない勇次でも知ってる アメリカの戦闘機パイロットを描いた
トム・クルーズ?の映画。その中で主人公が
着ていたグリーンのジャンパー?を羽織って
いた。
「それ、君の?」 トムは怪訝な表情で勇次が持つ紙袋を 見ながら聞いてきた。
「え?は、はい・・・・」
勇次は伏せたい顔を伏せずに、なるだけ
自然に答えた。
「前のお客が忘れたモノでしょ?」
首を振った後にトムが言った。
「・・・・いえ、俺のですけども」
「嘘ついちゃ駄目だよ。見てたんだから」
トムは勇次の反論を意に介さず言った。
どうしよう??? 勇次が次の言葉を
探しているとー
「お客さん、降りないんですか?なら 出発しますよお」
勇次たちのやり取りがよく聞こえていないのか、 運転手が面倒くさそうに言った途端、
降車ドアが 閉まった。
「あ!ちょっとー」
勇次が制止する前にバスが再び走り出した。 と、同時にトムが紙袋に手を伸ばす。 勇次は咄嗟に身を捻りそれを避ける。
「返しなさい」
トムが冷静に言った。
「・・・・関係ないじゃないですか」
勇次の言葉にトムはまた首を横に振った。
「関係なくないんだよ」
そう言うと、ジャンパーのポケットから 何かを取り出した。
「!?」 勇次の目はトムが持つ警察手帳に釘付けに なった。
「非番中だろうが、犯罪は見過ごせないんでね」
トムは正義感満載の表情で言った。
やがて何事かと、車内の全ての目が 勇次たちに向けられた。
「さあ、寄越しなさい」
トムがまた紙袋に手を伸ばす。
勇次は取られまいとまた身体を捩った。
「早く寄越すんだ!」
勇次はトムと揉み合いに。
車内は騒然となった。
「お客さん、なにやってるんですか?
止めてください!」
よからぬ事態を把握した運転手が 今までとは
違う声色で言った。
トムが紙袋を勇次から強引に奪った。
「!ちょっとー」
勇次の言葉を無視し、袋の中身を見た トムの目が剥かれた。
その時― 「危ない!バスを止めろ!!」
どこかで大声がした途端、バスが急停車した。
先程の急停車どころじゃない。 人々の身体が
車体前方に押しやられ、密着したままドミノ倒しの様に傾いた。
勇次もトムと共に大きくバランスを崩した。 「ぐあっ!」
勇次はトムに覆い被さる様な形で床の
空いていたスペースに倒れ込んだ。
「ぐはっ!」
後頭部を強打したトムが悶絶する。
吊革に掴まっていた他の乗客たちも
一斉に倒れた。
車内がパニックに陥るなか、 勇次は瞬時に紙袋をトムから捥ぎ取り立ち上がった。
「痛えよ!」「ちょっと離れてよ!!」
勇次たち同様、押し競饅頭の様に
倒れた乗客たちから悲鳴があがっている。
「あ、あぁ・・・・」
その光景を目の当たりにし、 アタフタする勇次の目に『非常口ドア』の 表記が入った。
勇次は立ち上がると人々を踏みつけない様に
拙い足取りで右側座席列後部に向かった。
「待て!」
トムもなんとか立ち上がり、 勇次の後を追ってきた。 勇次の肩を後ろから力強く掴む。
勇次は咄嗟にポケットから出した
グミの 袋を振り返り様に投げつけた。
「ぶおっ!」
袋の中から飛び出した何粒ものグミがトムの 顔に当たった。 勇次はトムが怯んだ隙に、
非常口ドア脇にある 赤いカバーを開け、中にあるレバーを倒すと 非常口を力一杯開け、
外に飛び出した。
「おい待て!!」
トムは遠ざかる勇次の背中を見て、追うのを
諦めるとスマホを出す。
「ごめんなさい、急に言われたもんで変な 停まり方してしまって」
運転手はアワアワしながら言った。
「いえ、俺も慌てちゃってつい 声を上げてしまいました」
吊革に(しっかり)掴まっていた筧はそう言うと、 席を離れた運転手と共に 乗客の介助に
向かった。
まさかな。非番の警官が乗り合わせてたのは
イレギュラーだった。
金を手に入れた若いのには 俺が声を掛ける筈
だった。 、、、で、わざと逃げられる。
だが、あの警官はこっちの都合は 当然
知らない。若いのをマジで しょっぴかれるのは
ゴメンだ。
素早い機転だった。
最初のバスの急ブレーキ。 セルシオの路線侵入~急ブレーキの顛末を たまたま見ていたが俺からすれば 大したことはなかった。急ブレーキを 踏むほどでもない。
その時、運転手は相当なビビり だと思った。
だから、耳元で怒鳴ってやった。 案の定、ビビりは急ブレーキ。 で、この様だ。
まぁ、結果オーライ。 かえって好都合に
なった。 あの金は俺のモンだ。誰にも渡さねえ。
筧は倒れた乗客たちを介助しながら 口の端で
小さく笑った。
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