奪取-の続き-
一郎は降りたばかりの走り去るバスを苦々しい表情で見送った。
ズボンの中のスマホがバイブする。
手に取り、画面に目をやるとショート
メッセージが届いている。
開くと見聞きしたことのない住所が記載されていた。
「川崎市?」
、、、そこに賢がいる。
一郎はタクシーを捕まえるべく手を挙げた。
バス運転席の傍、吊革に掴まった筧は後部に
目をやった。 さっきまで一郎が座っていた窓際の席にあの若いのが 緊張した表情で座っていた。
せいぜい頑張れよ。
口の端で小さく笑った時、ブルゾンの中の
スマホがバイブした。 取り出して画面を見る。
一郎からのショートメッセージだ。
―息子の場所がわかった 今向かってるー
もう一つ届いたメッセージには、住所が 記載
されていた。若いのから届いたモノを転送したのだろう。
更にもう一つ-
-俺の傍の吊革にいた若い奴だ-
、、、知ってるよ。
筧は笑いながら、 『俺は予定通り、ホシを
見つけて後を追う』
そう打ち込むと、今度は島川にメッセージを
打ち込んだ。
―金は手に入れさせた 父親がそっちへ向かうー
島川は筧からのメッセージを見ると、 シボレーのフロントガラスの向こう、 潰れたアダルト
DVDショップに目をやった。
川崎市、JR南武線 川崎新町駅の商店街の外れ にそのショップはあった。
日中にも関わらず、人気は無い。
ここは、ヨシが現役の頃に知り合いだった
ラッパー崩れの男が営んでいたらしい。
ヨシが言うには、アダルトDVDショップてのは 隠れ蓑でラッパーはここでクスリを捌いていた。
だが、そいつは売る方より自分が使う方に 夢中になっちまって、結局オーバードーズで死んだ
そうだ。
その後、身寄りの無かったラッパーのこの店は 手つかずになっており、以前から合鍵を持って
いたヨシは 事ある毎に、ここを利用していたそうだ。
蒲田の菖蒲(あやめ)橋を若い奴が離れた隙に
ガキを攫った。ヨシに指示された通り、顔は
見られることは無かった。
我ながらいい仕事だった。
しかも、ガキを隔離してるこの場所が多摩川を 超えてすぐの川崎市にある。
ヨシはまた”僥倖だ”って言った。意味はよく
分からないが。
父親、早く来ないかな。島川は楽しそうに
笑った。
勇次は姿勢正しく座席に座ったまま様子を
窺っていた。 足元で隠した紙袋を手にする
タイミングを。
真横の席には、居眠りしているサラリーマンが。 他の乗客もほとんどの人間がスマホに夢中で 誰一人こちらに目を向けてくる者などいない。
勇次は意を決し息を止めると、足の先で紙袋をそっと挟んだ。
、、、変わらず、誰もこちらを気にして
いない。
勇次は両手で顔を覆い、噓欠伸をしながら
ゆっくり項垂れる様に前屈みになった。
両手で紙袋を掴むとそっと持ち上げる。
重い!
だが表情には出さず、さりげなく上体を起こし 胸元に引き寄せる。
最後にもう一つ、目を閉じ大きく噓欠伸を
した。
開いた目の中、、、やった!車内に変化は
ない!!
勇次は高揚による手の震えを押さえながら降車ボタンを押した。 バスはいつの間にか初台坂下、南初台を通過しており 初台坂上で停車した。
勇次は紙袋を大事に抱え緊張気味に席を立つと、 薄ら眼を開けた真横のサラリーマンに
”すみません”して 開いたばかりの降車ドアに
向かった。
するとー
「ちょっと君」
突然、背中に男の声が掛かった。
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