送信
一郎は車内左方、前部で吊革に掴まり、 窓外をジッと見ている挙動不審な 若い男の横姿をジッと見つめていた。
車内は混雑していたが、高い座席に座っている一郎からは その姿がしっかり見えていた。
吊革に掴まり、窓外をジッと見ている勇次は
自分の左後方、吊革に掴まっている他の
乗客越し、 座席に座るお父さんの視線をヒシヒシと感じていた。
どうしよう?絶対疑われてるよ。。。
そろそろお父さんに
”お金を置いてバスから降りる指示”を
メールしなければいけない。
けどーお父さんの見てる中でメール→すかさずお父さんのスマホに着信ー いや、それは駄目だ!
今この状況では動きようがなかった。
その時、バスがクラクションと共に激しく
揺れた。急ブレーキだ。
吊革に掴まっている乗客たちが進行方向前方に大きく身体を傾かせる。
!! 咄嗟の判断だった。
勇次は揺れに任せる形で 身体を右に捻った。
左隣のサラリーマンが勇次の身体にぶつかり、 一郎の方からは死角になった。
ガラケーをズボンのポケットから出す!
すかさず送信ボタンを押した!!
車内で緊張しすぎて打ち込み作業が出来ないと困るから バスに乗り込む前にコメントを
書き込み、送信ボタンを押すだけ で済む様にしていた。
ガラケーをポケットに戻すと同時に車内の揺れが収まった。 勇次は大きく息を吐き、態勢を
整えた。
よかったぁ、、、事前に打っといて。
勇次は珍しく自分の行動に感心した。
突然の急ブレーキに、一郎は身体を
つんのめさせた。
「うおっ」
俯せながら前の座席の背もたれに両手をつく。
車内の揺れが収まるのと同時に顔を上げた。
もう一つ同時にーズボンのポケットの中の
スマホがバイブした。
!! 若い男に改めて目をやる。
男は吊革を掴んだまま態勢を取り直していた。 携帯電話は持っていない。
「・・・・」
一郎はズボンの内ポケットからスマホを出し
画面を見た。
―次のバス停で降りろー
一郎は文言を見て息を呑んだ。
「みなさま、大変失礼いたしました」
バス運転手の不機嫌そうなアナウンスが車内に響く。
「ふざけやがって」
勇次の背後、2人の学生が怒っていた。
「あんな無理な追い越しして、前に割り込むなよなバカが」
2車線ある道路。 左車線を法定速度で走るバスの前に 右車線から別の車が突然進入してきたのか。
車窓に目を戻していた勇次は首を右にやった。
フロントガラスの向こう、白のセルシオが
エンジンを必要以上に吹かしながらバスの前を
走っていた。
ああいうの大嫌いだ。誰にアピールしてんだろう? でもまぁ、、、今はおかげで助かった。
勇次は首を戻し、改めて車窓に目をやった。
バスは元の通常走行に戻った。
勇次は次のアクションを反芻した。
メールを見たお父さんは次のバス停でお金を
置いてバスを降りる。
そしたらそのお金を俺が・・・・座席に置いて
あるお金ーん??? 座席に置かれたお金を
どう回収すればいいんだ? その為には
どう考えても、お父さんと入れ替わりで自分が
座席に座るしかない。でなきゃ他の乗客が座ろうとしたところで お金の存在に気付いてしまう。
・・・・すぐ座れるようにお父さんの傍に
行かなくては! でも・・・・あからさまで バレないかな???
勇次は息を呑んだ。
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