再びの悪夢


「テストに関係がある十個のお饅頭って

な~んだ?」

「十個のお饅頭?う~ん・・・・」


 橋の上。欄干のたもとに腰掛ける賢の問いに

隣の勇次は腕を組み、しばし宙を見上げた。


「はい時間切れ~。答えは“答案(トーアン)。

十個のアン”だから」

「なるほどお」

 勇次は感心して言った。

「やった。また僕の勝ち~」

 賢は嬉しそうに両手をあげた。

「くそぉ。これで俺、全敗だ」

「約束通り、言う事聞いてよね」

「うん、いいよ」

「じゃあ、欲しいサッカーゲームのソフトがあるから買ってよ」

「え?・・・・じゃあ、買える様に頑張るよ」

 勇次は頼りなく言った。

「え~。すぐ買えるでしょ?ゲームソフト

なんて」

  悪気ない賢の言葉がグサリと刺さる。 「・・・・無職だからさ、俺」

 勇次は恥ずかしそうに言った。

「なんで?働けばいいじゃん」

事も無げに言った賢の言葉がまた突き刺さった。 「それはそうなんだけど・・・・人と付き合うのが 苦手で、どこに行っても馴染めないんだ。

だから・・・・」

 勇次は言葉を失くし、俯く事しか

出来なかった。


「そうかな?」

 賢が首を傾げて言った。 勇次は顔をあげ、

改めて賢を見る。

「僕も友達あんまりいないけど、お母さんが

言ってた」

「?」

「僕と仲良くなってくれない人は、僕の事

ちゃんと見てくれてないだけから気にするなって。 見てくれる人は世の中に必ずいて 僕の事を

ちゃんと理解してくれるって」

「・・・・」


「僕はお兄ちゃんの事、凄くいい人だと思う」

  賢が笑顔で言った。 勇次はまた俯いた。今度は身体を小刻みに揺らしながら。

「どうしたの?」

 賢が心配して覗き込む様に聞いてくる。

 勇次は悟られまいと、頑張って顔をあげた。 「・・・・俺も賢君の事、凄くいい子だと思う」 「じゃあ、僕ら友達だね」

 賢がにっこり笑った。

「だね」

 勇次もにっこり笑った。


  ポケットの中のガラケーがバイブした。

「うわっ!」

 勇次は飛び上がった。

「どうしたの?」 賢が不安げに尋ねる。

「だ、大丈夫・・・・」

 まさかあの二人から!?もう復活したの!!?

 勇次は賢に背を向け、ポケットからそ~っと

出した ガラケーの画面を見た。


 ?


ショートメッセージのお知らせがあった。

あれ?電話じゃない。喋るの辛いからかな?


 メッセージを開く。


 ??


 送り主は自分のスマホの番号ではなく、 賢君のお父さんの番号からだった。


「・・・・」


  メッセージをジッと見つめた勇次は 一瞬

戸惑った。振り返り賢に目をやる。


「?お兄ちゃん、どうしたの?」

 勇次の視線を受けた賢が尋ねた。

「賢君、喉乾いたでしょ?」

「え?うん」

「いっぱい走ったもんね。飲み物買ってくる」

 勇次は立ち上がった。

「僕も行くよ」

 そう言って賢も立ち上がろうとする。


 勇次はそれを制した。

「君はジッとして待ってて。すぐに戻るから」 「え?・・・・わかった」

  賢は不思議そうな顔で 起きかけた腰をまた

落とし、両膝を抱えた。


「じゃあ、行ってくるね」

 勇次は自動販売機を求め、駆け出した。


 賢は勇次の後ろ姿を見送ると足元に目を

留めた。 勇次のトートバッグが置いてある。 「・・・・」


 賢はトートバッグの中から、冊子を

取り出した。 ページを開く。


 架空の可愛らしい動物が1人で旅をしていた。 本当の友達を探して。

 賢は笑顔で物語を読み進めた。


 スポーツドリンクを2つ手にした勇次が橋上に戻ってきた。


 ?


  視線の先、いる筈の賢がいない。


「賢君?」


  勇次は辺りを見回した。

 突如、ポケットの中のガラケーが鳴った。

 今度こそあの人たちか!? 少し震える手で

ガラケーを取り出し、画面を見る。

 だが、また自分のスマホの番号ではない。

 始めて見る番号だった。


 勇次は不審に思いながらも通話ボタンを押した ガラケーを耳に当てた。

「・・・・もしもし?」

「夕方6時までに手に入れろ」

 聞いた事のない声、透き通る様な綺麗な

声だった。

 大男じゃない。その片割れ、トイレに夢中の

あの人でもない。誰だ?


「あの・・・・手に入れるって何をー」

 勇次は恐る恐る聞いた。

「わかるだろ?自分のやるべきことがさ」

 謎の声が言った。

「やるべき?って・・・・」

 勇次は改めて、賢がいた場所を見た。

「ガキを返してほしけりゃ、お前が金を手に

入れろ」

 勇次は血の気が引くのを感じた。


「今から言う事をメモしろ」

 謎の声が言った。楽しそうに。

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