大型スーパーにて

 勇次は目をジッと凝らし、ノートPCと

格闘していた。

 画面に表示された、ドライブレコーダーが収録したハイエース前方の 映像を倍速で見進めて

いく。 特段、変な箇所は無い。

  凝らし過ぎる程、凝らした目に疲れが

溜まった。

 一息ついて、センターコンソールに置いていた グミの袋に手を伸ばす。

「もうこれっきりか」

 袋ごとラフに呷るーグミは口を逸れ シートの下へ転がり落ちた。

「ちょ、マジ!?」

 勇次は屈み込み、グミを探す。



その時、フロントガラスの向こう

家から出てきた美波が、先程一郎が歩いた道を

同様に 銀行に向かって進んでいった。



グミはアクセルペダルの脇にあった。 拾い上げ身体を起こす。

「・・・・30秒ルール、みたいなのあったな」

 食べ物を地面に落としても30秒以内に拾えば食べても問題ない、 という謎のルール。

  小さい頃、お菓子を地面に落とした時に 親戚のおじさんが言ってたのを思い出した。

 ーふっふっー摘まんだグミを吹き、汚れを

落とす。

  しかし・・・・秒数がどうだろうが落ちたモノは落ちたモノ。 勇次はやっぱり食べるのを諦め、作業に戻った。


 それから数十分。


 最後のサムネイルをチェックし終えた 勇次は

大きく伸びをするとガラケーで鉄男を呼んだ。


ー終わったか?ー

  すぐに野太い声が返ってくる。

変わらず弱弱しさは否めないが。


「はい。特に異常はありませんでした」


 ーよし。一度戻って来いー

「え?もういいんですか?」


ーああー 勇次は、この任務からの解放に

安堵した。


ーとりあえず、あの夫婦は下手な事しなさそうだからな。買い物忘れるなよー


 通話が切れると、勇次はガラケーをしまい

ハイエースのエンジンを掛けた。


 出発するハイエース。


 その後方、白いピックアップタイプの4ドア、 中古のシボレーアバランチがゆっくりハイエースの 後を追う様に走り出した。


「あった」

 走るハイエースのフロントガラスの向こう、

右手に大手チェーンの大型スーパーが見えた。

 勇次はスピードを落とし、対向車に気を

つけつつハンドルを右に切った。


 駐車場にハイエースが停車する。


 と同時に、さっきまでハイエースが走っていた車線の 路肩にシボレーが停車した。


「あんな野郎が誘拐犯?」

 島川はシボレーの運転席で拍子抜けした様に

言った。

 ハイエースから見るからに頼りなさそうな男が出て来ると 店内に駆け込んでいく。


  筧から聞いた住所を頼りに車を走らせてきた。


ー公園がある。その傍らに停まっている

ハイエース。 その中にホシがいるーヨシが

そう言った。


 これ、楽勝じゃね?島川はスーパーに目をやりながら シートを後方に傾けるとガラケーを

取り出した。


 遠藤家。テーブルに腰掛けた筧のスマホが

鳴った。

「悪い、別件の電話だ」

 ソファに尻を沈め、憮然としている一郎に

そう言うと筧はリビングを出、玄関に向かった。


 スマホをポケットから取り出す。 島川から

ショートメッセージがきている。


―犯人見つけた 今ドラッグストアにいるー


 ここから離れたのか。 筧は素早く返信を

打ち込む。

―そのままアジトまで尾行しろー


―わかったー


 筧は、島川からの返信を楽しそうな表情で

見ると顔を引き締めリビングに戻った。


勇次は、スーパーの店内で トイレットペーパーを載せたカートを押していた。

「えっと、下痢止めは・・・・」

 勇次の足が急に止まる。


  視線の数メートル先、大家の真紀子の姿が

あった。


 やばい!てか、なんでこんなトコに!?


 そう思ったのと同時に勇次のガラケーが

鳴った。

「げっ」

勇次は慌てて棚陰に隠れると、ガラケーを

取り出した。


「はい・・・・」

 小声で返事する。


ー?何だ?こそこそ喋りやがってー

  訝しげな鉄男の声が返ってきた。


「いえ、ちょっと・・・・」


ー水、買ってこい。沢山なー


「水ですか?」


ートイレ行き過ぎて脱水症状起こしてんだ。

急げよー

  乱暴に通話が切れる。


 勇次は真紀子に見つからない様に こっそりと

その場を離れ、飲料品が並ぶ棚に 向かい、ペットボトルの水を数本、カートに 載せると急いで

開いているレジに行き、カートのカゴを置いた。

 

 ふと、レジ脇のガラスケースに目を留めた。

ケースの中には沢山の銘柄の煙草が

置かれている。


 初の飲酒の際、酒同様に初めて煙草も吸った。

 どっちも身体によくない事は理解していたが “どうにでもなれ”、その一心で無茶をした。

 その結果・・・・酒は駄目だったが煙草は

ムシャクシャを忘れさせてくれ、頭がスッキリ

した。

 それ以来、1日1箱は吸っていた。

お金も無いくせに。


 で、鉄男たちに話した様に現在は止めていた。  だが、今は・・・・ストレスが凄すぎる。。。


「あの・・・・」


 勇次の声に、ハンディで商品のスキャンを

始めた女性店員が顔を上げる。

「はい?」

かつて吸っていたフィリップモリス3mgを

指差そうとした勇次の目がガラスケースの前に

大量に 積まれたグミの袋に留まった。

「・・・・えっと、これもください」


  賢君はまだ怖い思いをしてる。

勇次はそう思うと、フィリップモリスには

手を付けず グミを1袋手に取り、会計中のカゴにそれを追加した。


「お会計、2485円です」

 勇次は店員に千円札を3枚、小銭で105円を渡し 620円の釣りを貰うと、レジ袋に買った

品物を詰め、 店を出た。


 残金は千円札が1枚と小銭が少々になった。 「はあ・・・・」

 ため息をつく勇次が背後に気配を感じた。

 ・・・・振り返ると、真紀子が立っていた。 「見つけたわよ」

 勇次を睨みつけながら真紀子が言った。

「お、大家さん・・・・どうしてココに?」

「姉の家がこの辺にあるの。ていうか、あなたに関係ないじゃない」

「はい・・・・」

「そんな事よりー」

  息を呑み後退る勇次に真紀子が詰め寄る。

「家賃、払って頂戴!」

 勇次は、何も言えず固まった。



 そんな勇次を島川が目に留めた。

「何してんだ、あいつ?」



 美波は多額の現金が入った紙袋を提げ、 早足で家に向かっていた。

 タクシーを使おうかと思った。 だが、犯人が

見張っていて下手な誤解を受け 賢の身に何か

あったら?そう思い、徒歩で銀行に行く事を

決めた。

 尾いてくるならそうすればいい。

私は何もやましい事はしないから。

美波は背後を気にもかけず歩いた。



 左手前方のドラッグストアを通りかかると、

女性の大声が聞こえた。 目をやると、初老の女性が若い男に怒鳴り散らしている。

「・・・・」

 何があったのかよくわからないが

美波はしばし、その様を見ていた。



「早く払って頂戴!」

「あの・・・・あと少し待ってくれませんか?」

 勇次は凄い剣幕で詰め寄る真紀子に頭を下げて言った。 だが、真紀子は聞く耳を持たない。

「あと少しって、もう十分すぎる程待ったわ!

ふらふらしてる暇があるなら働けばいいじゃ

ない。みっともない」

「すみません・・・・」

 いつのまにか周囲には人だかりが出来、 勇次に好奇の目を向けていた。

  真紀子は、恥ずかしそうに俯く勇次が

持っている買い物袋に目を留めた。

「無駄な買い物するお金があるなら払えるんじゃないの?」

「え?いや、これは僕の買い物じゃなくて・・・・」

「払えないなら、とっとと出てってもらうから! さあ、払ってよ!!」


「あの」


 ?勇次が声の方に目をやると女性が

立っていた。

「!!?」

  賢君のお母さんだ!なんでここに!?


 勇次は呆然とするしかなかった。

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