ドラレコ
「いないよ、どこだ?」
息も切れ切れで走りながら、勇次は辺りを
見回した。
一郎の姿が見えない。どうしよう?
とりあえず、さっき一郎が向かって行った方向をトレースして来た。
あの人に知られたら、またドヤされるよ。。。
勇次は今この瞬間、鉄男から電話が来ない事を
祈った。
と、同時に賢の事を想った。
さっきの黒田さんのスクープ、あと数日で雑誌に載っちゃうのか。。。
ー本当のお父さんじゃないー
昨夜、賢が言った事を思い出した勇次の胸が
痛んだ。
そんな事を考えながら走ってる内に、コンビニなどの商業施設がある駅付近のエリアまで走って来ていた。
周囲を見回す。銀行、銀行、銀行。。。
あった!
勇次がいる通りの向こうに銀行があった。
が、その数軒隣にも別の銀行がある。
そのまた反対側にも。
銀行多いなぁ。。。
勇次はオロオロしながら全ての銀行を
交互に見やった。
どこだ!?
大分、後れを取っている。
今頃お父さんは、銀行の中に入っている筈だ。
どの銀行から出て来る?
勇次は、お父さんがどこから出てきても
見つけられる様、素早く顔、目を動かした。
廻りの人から見たら確実に挙動不審。
そんなことはわかってる。
普段の俺なら出来ない。
だが今は関係なかった。
ヘマをしたら賢くんが危ないから。
するとー
一番最初に目をやった銀行、開いた自動ドアの向こうから、紙袋を提げた一郎が出てきた。
「よかったぁ・・・・」
一郎は変わらず1人だった。
見る限り不審な点はない。
勇次は安堵すると、帰路につくであろう一郎の
背中を改めて追いながらガラケーを取り出し、
鉄男を呼び出した。
「どうした?」
鉄男の声がすぐ聞こえた。
「あの、銀行から出てきました」
「出てきた?入った時になんで連絡しない?
小まめに連絡しろ、って言ったろ」
脅す様な鉄男の声。
「・・・・す、すみません」
「おい・・・・おかしな事はなかったのか?」
少し疑う様な鉄男の声。
「え!?だ、大丈夫です!」
「・・・・後を尾けろ」
腑に落ちないが仕方ない、そんな声色で
鉄男が言った。
「鉄ニイ!もうトイレの紙、なくなるぞ!」
鉄男の向こうから、直也の声が響いた。
「名前呼ぶなっつったろ!」
「あ!ごめん!」
鉄男のため息が聞こえる。
「おい」
気を取り直した様に、ドスの効いた声が
勇次の耳に響いた。
「何かあったら、つぶさに連絡しろ。
それとー、バカな野郎には絡まれんじゃねえぞ」
「は、はい」
勇次はガラケーを切ると、ふと右手にある
ブティックのショーウィンドウに目をやり
立ち止まった。
俺は何をしてるんだろう?
勇次はそう考えるとグミを一粒、口に放り
思い出した様に一郎の後を追った。
「戻ったぞ」
遠藤家。一郎がリビングに戻ると、
手に提げた袋をテーブルの上に置いた。
「お帰りなさい」
美波は疲れたであろう夫の元へ駆け寄った。
「ちょっとトイレに」
筧はリビングを早足で出た。
筧は足音を消し2階へと駆けると、
一郎の書斎に再び入る。
そして先程の様に表の通りを窺った。
誰もいない。左手に目をやる。
公園が見えた。その脇に止まっている
ハイエースに先程見た男が乗り込むのが見えた。
「あそこにいやがんのか」
筧のスマホが鳴った。見覚えのある番号だ。
「キヨ」
「ヨシ、このガラケーでいい?」
島川の弾んだ声が返ってきた。
「ああ。で、銃は?」
「ジジイがヨシの名前出しても渋ってさ」
「なんて言ってた?」
「・・・・『クビになった障害持ちの元刑事の
名前出されても怖くはねえ』なんて言ってさ」
どいつもこいつも、俺を舐めやがって。
筧は歯軋りした。
「でも、安心して」
「?」
「銃、ちゃんと手に入れたからさ」
島川が得意げに言った。
「俺、ヨシをバカにされて頭きてさ。
ジジイをボコって、皺くちゃのアソコ
ひん剥いて、熱湯かけてやったら素直に
なったよ」
・・・・やっぱ俺にはこいつしかいねえ。
「じゃあ、今から言うトコに来てくれ」
筧は笑みを浮かべ言った。
ハイエースに戻った勇次はガラケーを手にし、鉄男を呼び出した。
「家に戻ったか?」
1コールで鉄男の声が返ってきた。
心なしか、さっきより具合が悪そうだ。
「はい。あの・・・・大丈夫ですか?」
「ついさっきから、腹の痛みが増してよ。
いてて・・・・」
「今すぐ、薬とか買って帰りますから」
「バカ。まだやる事あんだよ」
「え?」
「家に異常がなかったか確認しろ」
「ど、どうやって?」
「ドラレコあんだろ。SDカードを抜け」
「ドラレコ?・・・・って、車のエンジン切ってましたけど?」
通常のドライブ・レコーダーはエンジンの
ON・OFFに合わせて録画の開始・停止を
行う。車のバッテリーにその稼働を
委ねているからだ。
勇次は昔、ネットの記事で読んだ記憶を元に
聞いてみた。
「バカ野郎。んな事テメエに言われなくても
わかってんだよ」
鉄男が辛そうな声で毒づく。
「今、お前がやってる動きは元々、
銀行に”金降ろしに行くヤツの尾行”と、
”家の監視”を俺たち兄弟で手分けする手筈だったんだよ」
「はい・・・・」
「もし家を監視してる方が何かイレギュラーな
事態が起きて車を離れなきゃ行けなくなったら?無人の車がエンジン掛けたままは怪しいだろ?
だから、そのドラレコはバッテリー内蔵のヤツにしてんだよ。
エンジン切ろうが関係ねえ。お前が離れてた間もしっかり録画してるから心配すんな」
「なるほど・・・・」
勇次は鉄男の用心深さに妙に納得し、
フロントガラスの上面に目をやった。
そこには吸盤で取り付けられた、黒く小さな
ボックス型の配線不要のドライブレコーダーが
あった。
側面にスロットを見つけると、そこから
マイクロSDカードを抜いた。
「え~と、抜きました」
「それをカードリーダーに挿せ」
「カードリーダー?」
「渡したろ」
「あ」
勇次は、トートバッグの中から出発前に
渡されたスティック状のカードリーダーを
取り出し、スロットにマイクロSDを
挿し込んだ。
「カード、入れました」
「それをお前のパソコンに繋げ」
勇次はトートバッグからノートPCを
取り出し、端子にカードリーダーを挿した。
画面にフォルダが表示される。それを開くと
録画サムネイルが100以上表示された。
1つのサムネイルは、それぞれ1分づつ
記録されている。
「繋ぎました。動画が沢山ありますど・・・・」
「それ、全部チェックしろ」
「え!?凄く時間掛かりますけど・・・・」
「誰がじっくり見ろって言った!?
AVの絡みじゃねえんだ!
その手前の女優男優の下手くそな芝居部分、
飛ばすみてえに早送りしろ。おかしなトコが
あったら、そこだけチェックすんだ。
わかったな?」
「わ、わかりました」
通話が切れると、勇次は早速作業に
取り掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます