CHAPTER4-1 ファーストコンタクト
1
リビングのソファに腰を沈めていた一郎の
目の前、テーブル上に置いていた
スマホが鳴った。
一郎の背後、壁際でソワソワしていた
美波が駆け寄る。
スマホの画面には見覚えのない番号が。
一郎はテーブルに置いたままのスマホの
スピーカーをONにした。
「・・・・はい?」
緊張している。自分でも分かる位、
一郎の声は掠れていた。
『メモは見たか?』
向こうは気にしていない様だ。
そんな事より、ボイスチェンジャ―を付けて
いるのだろうか?機械的で奇妙な声に
気を取られ、一郎は美波と顔を見合わせた。
「・・・・ああ、見た」
今度は掠れていなかった。犯罪者なんかに
舐められて堪るか。
『警察には連絡してないな?』
奇妙な声が尋ねてくる。
「もちろん、してない」
『よし。五千万用意するな?』
「・・・・そんな大金、急には無理だ」
くくく、と奇妙な笑い声が返ってくる。
『遠藤一郎さん、あんたにとっちゃ、
急でも無理でもねえだろ?』
「・・・・」
『あんたはいつも通り、仕事で帰宅は遅い。
で、美波さんて言ったっけ?
料理研究家やってる奥さんも同様に、
今日は遅くまで仕事だった。
1人寂しく留守番してる息子を攫うのなんて
わけなかったぞ』
この犯人は、自分たちの生活パターンを
把握している。夫婦は、また顔を見合わせた。
『ご自前の防犯カメラを確認しても無駄だ。
顔を晒すほど馬鹿じゃないんでな』
自信満々な物言いの後に、また奇妙な
笑い声が響いた。
『ちゃんとした警備会社と契約しとくん
だったな。
そうすりゃ、少しは手間取ったのによ。
金持ってるくせにケチだとロクな事に
ならんぞ?』
余計なお世話だ。一郎はそう言いたかったが、グッと堪えた。
「お金を渡せば、本当に賢を
返してくれるんだな!?」
堪えたが、憮然とした態度は隠せなかった。
語気荒く言ってしまった。
話を拗れさせてしまったか?
一郎は息を呑む。
『もちろんだ。お互い、ウィンウィンの
関係でいこうじゃねえか』
「・・・・」
あちらは意に介していない様だった。
余裕な口ぶりで続けてくる。
『明日の朝、また連絡する。そしたら
銀行へ行って金をおろしてもらおうか』
通話が一方的に切れた。
「くそっ!!」
一郎は憤り、スマホを乱暴にテーブルに
放ると立ち上がり室内をウロウロし始めた。
ふざけやがって!犯罪者が俺から
金を奪うだと?
そんな事絶対許さない。一郎は昏い目で
空を見つめた。
美波はただ・・・・ただ祈った。
息子の無事を。
直也は笑い転げていた。
「何笑ってんだよ?」
ガラケーに繋がったマイクを放り、
鉄男が弟に言った。
「ウィンウィンて。それ、大分古いぜ」
「うるせえ」
鉄男は少し恥ずかしそうに煙草を咥え、
火を点けた。大きく煙を吸い込む。
「でもよお、身代金もっと釣り上げて
よかったんじゃねえか?」
直也が言った。
鉄男は大きく煙を吐き出してから口を開く。
「バカ。幾らガキを取り戻す為とはいえ、
俺らみてえなモンに金払うのなんざ、
安かろうが渋るモンだ。だから、こっちの
要求が上がれば上がるほど、へそ曲げちまう
可能性が増える」
「親が払う気を失くすって事か?」
「それもあるが、下手すりゃ自棄になってサツに垂れ込む。そんなモンだろ?ー」
鉄男はもう一度、煙を大きく吸い込んで吐き出しー
「親なんてモンはよ」
神妙に言った。
直也は静かに頷く。
「まあな。そんなリスクはごめんだ」
「だから、渋られて下手打つより、適度な額を
確実に手に入れる方がいいんだ」
「しっかりしてんなあ」
「茶化すな」
鉄男はそう言って鯖の握りを口に放った。
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