第2話
翌朝早く、枕の横に置いていたスマホの振動で目が覚めた。通知を目にし、心臓が縮みあがった。そこには「木村が死んだ。火事らしい」という質素な文章が送り付けられていた。大樹はすぐに辻野に電話した。辻野の声は震えていた。寝ぼけて馬鹿なことを送ってきたという可能性が消滅した瞬間だった。
「火事ってなんで……」大樹が自分の思考を整理するかのように独り言のようにこぼした。
「俺も詳しいことはわかんねえ……。なんかでも、噂では木村が自分の体に火をつけたらしい」
「じ、自殺? 木村が?」
「噂だぞ」
あの木村が自殺するわけがないのだ。楽観的で常にふざけており、「セックスするまではトラックに轢かれても死ぬわけにはいかねえ」と豪語していた性欲の化身である木村が死ぬ理由はどこにも見当たらない。
中学校に登校しすぐに辻野と落ち合って話したが、新しい情報は入ってきていないようだった。
「お前、昨日、やけどの女って言ってたよな。トイレで見たの」
辻野に言われ、大樹は考えまいとしていたあの焼けただれた女が浮かび上がってくる。
「呪いだったりして。馬鹿にしたから……」
馬鹿だな、とは言えなかった。どんなことでも冗談しか言わない辻野が真剣に言っていたからだ。
大樹と辻野は学校を抜け出し、二人で金を出し合ってスーパーのなかにある花屋で花束を買った。それを優しく握りながら、昨日の女子トイレの前に献花した。しばらく手を合わせた。
「これで大丈夫かな?」
辻野が自転車を漕ぎながら弱々しく聞いてきた。
「俺にわかるわけねえだろ」
二人とも両親が共働きなため、家に帰っても一人だった。それがどうしても怖いのは言葉を交わさなくてもわかった。大樹はスーパーの横に併設されているゲームセンターに行こうと誘うと辻野は乗ってきた。あの機械音で騒がしい空間ならこの嫌な雰囲気を少しでも忘れられるかもしれない。
だがいざ来てみると焼けただれた女や木村が自分の体に火をつけることの想像が止まらなかった。シューティングゲームではゾンビの映像が女に重なってしまい、さらに不快な気分になった。結局一時間もしないうちにゲームセンターを後にし、それぞれの自宅に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます