第六話 姉妹の気持ち

 先輩はいつも優しかった。委員で私がミスしても怒ったり大声をだしたりせず、優しく助けてくれた。包容力があって、いつも受け入れてくれた。

 ちょっと押しが弱いところも可愛くて大好きだった。人とくっつくのが本当はあんまり好きじゃないのに、私が抱き着くと困ったように笑って許してくれるところなんて、私のこと特別に優しくしてくれてるんだと思えて舞い上がってしまう。


 一緒に遊ぶほど、先輩は私の中で特別に大好きな人になっていった。一番大好きだし、一番仲良しだし、だからずっと、一生一番の関係でいたい。

 中学生になった先輩と離れたくない。現実的に毎日会うのは難しくても、せめて、私のことずっと考えていてほしい。


 そんなささやかな願いから、私は先輩の友達以上の関係になろうときめた。恋とか、そう言うのじゃないと思う。私はただ純粋に先輩が好きなだけ。

 だけど友達以上恋人未満、そう言うよく聞くフレーズの特別な関係になればきっと、私から誘わないとなかなか遊びに誘ってくれないようなちょっと薄情なところのある先輩でも、私のことを覚えていてくれるはずだ。


 だからキスをしたかった。ただの友達じゃしない仲良しの証明となる行動をして、私のことを先輩の心の中にわすれないよう閉じ込めてほしかった。

 でも、でもだよ? あの、なんか、キス、実際にしたら、なんだかすごくふわふわして気持ちよくて、真っ赤になって目をとろんとさせてる先輩が可愛くて胸がきゅんきゅんして、恋人でもいいかもってなった。

 だって私が先輩の恋人にならなかったら、先輩の一番の友達を死守してもいずれ誰かが恋人枠におさまるってことだよね? そんなの嫌だ。


「……うー……さすがに、やりすぎたかな?」


 夜、ベッドにはいってもずっと先輩の唇が頭から離れない。先輩のことばかり考えているのはいつものことだけど、でも今日はあれからずっとそればかり考えてしまう。

 お姉ちゃんのことも視界にはいらない。夕食中ぼーっとしすぎだって注意されたけどまだおさまらない。


 もっとしたい。でも、先輩は嫌がるかな。と言うか今日だってさすがに拒否されないからって調子に乗って何回もずっとしてたの、やりすぎって呆れられてないかな?

 でも、気持ちよくて、とめられなかった。音楽が聞こえてきた時もほんとはやめたくなかった。でもそうなると、本当に辞め時がなくなってしまって先輩を追い詰めてしまうかもしれないから、我慢した。


「……はぁ」


 先輩、私のことどう思ったかな? する前より特別とは言ってくれたけど、悪い意味でじゃないよね? あぁー、不安になってきた。

 私っていつもこうだ。最初はテンション高いのに、そのせいでやりすぎたり焦ったりしてミスしてから回る。その度、先輩が助けてくれた。


 ……先輩、好き。年をとって大人になっておばあちゃんになっても先輩と仲良しでいたい。私が一番じゃなきゃヤダ。これって、やっぱり、恋なのかなぁ?


 私はまだ自分の気持ちもわからないまま、だけど先輩の特別になりたいって気持ちだけは間違わないから、次もまた、機会をみて嫌がられない程度にキスをしようと心に決めた。

 そして先輩の唇を思い出してもやもやしながら、なんとか眠りにつくのだった。








 ハルちゃんとは同じクラスだし、もちろん知っていた。だけど仲良くなったのは妹がハルちゃんを家に呼ぶようになってからだ。前は大人しくて優しいけど、気が弱くて付き合いにくいのかと勝手に思っていたけど、その印象は裏切られた。

 ハルちゃんは私が強い言葉でつい言ってしまっても平気だし、違うと思ったことははっきり言う。ハルちゃんは優しくて私の意見を受け入れてはくれるけど、だからって自分の意見を曲げるわけじゃなかった。

 興味がなさそうでちゃんと周りを見て、相手が欲しい言葉を言ってくれる。それは自分がないとできないことだ。


 そうして少しずつハルちゃんのことを知っていって、なんだか、もっと彼女に見てもらいたくなった。もっと私のことを知ってほしい。もっとハルちゃんのことを知りたい。

 まっすぐ目があうとドキドキして、私は最近あんまり読まなくなっていた少女漫画をまた読みだした。そして確信した。

 これは恋だと。


 だからまずその一歩として姉崎呼びはやめさせた。最初はほんとに面白くて気に入ってたし、それきっかけで仲良くなったとはいえ、私を見てほしいのに姉と呼ばれるのはさすがに論外だ。

 妹の徹はサキ、なんてハルちゃんに呼ばせてるのはいいとして、ハルちゃんにべったりだ。前はしょっちゅうハルちゃん自慢をしてきたものだ。最近はとんとないけど。


 徹ももしかして、と思わなくもないけど、恋人ではなさそうだし、あきらめなくてもいいだろう。徹が心の中でどう思っていても関係ない。大事なのはハルちゃんの心。行動あるのみ。


 そう思って待ち構えて家をでた。コンビニなんて口実だ。少しでも一緒の時間を過ごして中を深めたかっただけ。いつも同じ時間に帰るのは知っていたから。

 でもそうしてお話していると、はっきりこれが恋で下心もあるのに友達のふりして仲良くなるのって違うかも。と言う気持ちが膨らんできて、私はハルちゃんに告白することにした。


 まだ絶対受けてくれるはずはないから、この場ですぐに断られたら終わりだ。だから念入りにすぐに返事はいらないと前置きをしてから告白した。

 ハルちゃんは戸惑っていたようだけど嫌ではないようで、困ったようにしながら子供みたいな質問をしてくる。まあ、私達はまだ子供だけど、それでもどうやら、私の方がちょっとだけ大人らしい。だって、恋かどうかの判断くらいはつくのだから。


「……~~!!」


 それから、思い出すだけで恥ずかしい。勢い余って、と言うかハルちゃんがガードが緩すぎると言うか、踏み込んでも許してくれるから調子に乗ってキスしてしまった。

 もう歯も磨いたしお風呂もはいってなにもかも残っていないはずなのに、まだ私の唇には熱が残っているようだ。


 ハルちゃん、あの時は頷いてくれてたけど、あとからやっぱり気持ち悪いとか思ってないかな? ああ、さすがに距離感ばぐりすたよね。うう。でも、でも、めっちゃくちゃ可愛かった!

 可愛すぎる。それにハルちゃんって私よりちょっと背が低いのに胸は大きいんだよね。プールの授業でわかってはいたけど、実際に体で感じると、こう、気持ちよかった……。

 ってこれはちょっと変態みたいだよね! 今のなしなし!


「……はぁ」


 こんなテンションじゃ、次会った時も何しちゃうかわからない。落ち着いて、今日のことは強引だったことは謝って、最初に計画立てたようにちょっとずつハルちゃんに好きになってもらえるよう、地道にコツコツ頑張らないと。


「……」


 ……でも、キス、気持ちよかったなぁ。またしたいなぁ。


 私はこの日、なかなか寝付けなかった。




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後輩とその姉であるクラスメイトに迫られる話 川木 @kspan

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