共有者
ヘリに乗った5人。
俺たちが島の上空へついたとき、驚きの言葉を言われる。
「降りろ」
「「はあ?」」
派手な女性とガタイの良い男が抗議する。
ヘリに乗り込むと同時に何やらリュックのような物を背負わされた時点で何となく分かっていた。
これはパラシュートだろうと。
「その紐を引けば開くようになっている。ヘリを飛び降り、紐を引く。それだけだ。降りろ」
「ヘリを下まで降ろせばいいじゃねえか!」
「そうよ!」
騒ぐ二人に対し、俺たちが暴れないようにいるスーツの男は冷徹に告げる。
「喚くな、犯罪者共。島の周りは特別な風向きをしていてヘリでは危険。さらにお前たちがパラシュートごと飛ばされてもこちらに損害は無い」
スーツの男はヘリのドアを開ける。
そして女の手錠を外すと突き落とした。
「きゃあああああああ!」
悲鳴とともに落ちていく女を見て他の4人は、スーツの男が言っていること。
それが本当のことだと理解した。
女はパニックになりパラシュートを開けずに落ちていく。
「次」
その言葉に全員がリュックから伸びる紐を握った。
大人しくなった俺たちに対し、スーツの男は一人ずつ落としていく。
ガタイの良い男は怯えながらも自分の力で落ち。
細い男は最後まで怯えていたため女同様落とされた。
少年は静かに落ちていき。
ついに俺の番になった。
「お前はどうする」
自分で落ちるか。
落とされるか。
「じ、自分で行きます」
手錠を外された俺は紐を握り、初めて見る高所からの景色に怯える。
しかし落とされるよりもという気持ちで竦む足を出して飛び降りる。
途中でパラシュートを開くと他の3人が見える。
女以外は無事パラシュートを開けたようでゆっくりと降りていく。
操作方法が分からない中、下を見ると森に向かっている。
そのとき突風が吹き、あらぬ方向へ飛ばされていく。
それで不運は終わらない。
どこからともなく炎球が飛ばされてくる。
バスケットボールほどの大きさの炎はまずガタイの良い男のパラシュートを焼き、男は声を上げながら森へ落ちていく。
「くっそがああああ!」
次に狙われたのは細い男。
同様にパラシュートに炎が飛んできたため落ちていく。
それは先に落ちていった男の近くだった。
「うわああああ!」
次は少年だった。
同じようにパラシュートに飛ぶと思われた炎は少年自身に当たる。
少年は断末魔を上げ燃えていく。
パラシュートにも火が付き、海へ落ちていった。
「熱いよ!助けてよ!」
全員の姿を見ながら怯えていた。
次は俺だ。
炎が飛んできた。
それはまっすぐに俺の体へ向かってくる。
当たると思われたその瞬間、突風が吹き俺は炎を避けた。
しかしパラシュートにかすっていたようで少し燃えている。
ゆっくりと降下しパラシュートの火が俺に向かってきたとき、海の真上にいた俺は決死の想いでパラシュートを外した。
海へ叩きつけられた俺は意識を失った。
意識を取り戻した俺は海岸にいた。
手には砂の感触があり、足元に波が当たる。
どうやら運よく波に流されたようだ。
強い日差しのもと起き上がると隣に何かがある。
意識をはっきりとさせ、隣にあるものをよく見ると。
黒く焼け焦げたようで、それは人の形をしていた。
「うわああ!」
それは俺の前に落ち、焼かれた少年だった。
すでに息をしていないし、その姿から無くなっているのは明白だった。
せめてもと思い手を合わせた俺は自身に怪我が無いか確認する。
多少の擦り傷だけだったため森へ向かう。
炎を飛ばした人間がいる以上、ここに留まるのは危険だと判断したから。
森へ入れば障害物も多いし、何より森へ落ちていった男二人の安否を確認しなくては。
少し歩くと何やら声が聞こえた。
それはガタイの良い男の声。
俺は身を潜めながら近寄る。
するとガタイの良い男のが細い男の胸倉を掴んでいる。
「てめえ。なんで俺を蹴った」
「……す、すみません」
聞いていると、ガタイの良い男のが起きたタイミングで細い男が自分を蹴っていた。
タイミングよく起きた男は蹴りを食らいながら起き上がり今に至るようだった。
「ここは法律なんてねえからな。ぶっ殺してやるよ。おれは殺人して捕まった人間だからな。人を殺すことに抵抗なんてねえ!」
ガタイの良い男は細い男を殴り飛ばした。
2メートル程度飛んだ細い男は鼻血を出し歯を折りながら倒れる。
脳震盪でも起こしたのだろうか動けない男の上に跨るように乗ったガタイの良い男は何度も拳を振り下ろす。
息を漏らしながら殴られる男は徐々に動きが減り、ついに動かなくなった。
それに気づいた男は拳をほどき、立ち上がりながら笑う。
「はっはあ!ここはマジで楽園じゃねえか!すきなだけ殺せる!とりあえず、あの炎を飛ばしたやつ。あれは殺す!」
男が宣言する間、息を殺すように隠れる俺は男がどこかに行くのを待つ。
「誰だ!」
見つかったか、そう思い体を固くした俺は男を挟んで俺の反対側。
その茂みから女の子が出てきた。
その子は銀髪に青い瞳の少女。
白いワンピースから伸びる手足は細く、色素の薄い肌も相まって、まるで現実感の無い人形のように美しい少女だった。
外人であろう女の子に男は動揺しながら話しかける。
おそらく外人に対して動揺したが、外国語を理解出来るチップの存在を思い出したのだろう。
「お嬢ちゃん。お母さんはいるのかい?」
こいつは馬鹿なのか?
もしくは人を殺したことでテンションがおかしくなっているのか。
この島は楽園島。
この島にいるのは犯罪者のみ。
つまりこの可憐な少女も犯罪者であるということ。
早く逃げなければ。
そんな考えとは裏腹に俺の足は動こうとしない。
彼女を見たいとか、あの男がどうなるのか見たいとかでは無い。
これは漠然とした恐怖だ。
平然と人を殺せる人間と。
その前で平然と立てる少女と。
この島で起きていること、これから起きるであろうこと。
その全てに恐怖しているのだ。
少女が口を開いた。
「……おじさんがその人を殺したの?」
「ん?そうだが?」
なんでそんなことを聞くのか。
疑問符を浮かべる男に少女は近づく。
そして……。
「……なら、おじさんは……私の敵」
静かにそう言った少女は、一瞬で男に近寄る。
不意をつかれた男は動けずに接近を許した。
少女は男の背に乗ると、どこから出したのかナイフで男の首を切った。
「かはっ」
血を吹き出しながら倒れた男。
少女は男から離れるとこちらを向いた。
「……おにいさんは、私の敵?」
静かに吹いた風がワンピースをなびかせ、幻想的に見せる。
それはこれから行動を共にする悪魔との出会いだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
気づかれている。
男を瞬殺し、動揺すらしていない。
つまり、この子にとって殺しとはそれだけ日常的な物ということ。
そんな子を相手に生き残れるのか?
無理だ。
ならせめて、会話だけでも答えようじゃないか。
「俺は君の敵じゃない」
「……そうなの?」
立ち上がり少女と目を合わせて答える、瞬間。
俺は自分の体を見上げていた。
少女は俺の背中に触れながら首を切っていた。
「でも……私には分からないから……切っておくね?」
ああ、死んだのか。
……
手に土の感触。
天国か地獄か。
そこにも土なんてあるんだな。
なんだろう、あたたかい、日差し?
目を開けると、そこは海岸。
俺は倒れていて、足は海につかり、隣には少年の亡骸……。
「はあ!?」
なんで俺はここにいる?
死んだはずじゃ……。
おそるおそる切断された首を触る。
繋がってる。
立ち上がり森を目指す。
自分が殺された場所を確認するために。
すると森から声が聞こえる。
それは知っている声だった。
「てめえ。なんで俺を蹴った」
それは既視感とかではなく、俺の知っている状況と全く同じものだった。
俺が隠れていると、同じように男が殴り、さらに殴り、殺す。
男は高笑いをすると奥から少女が……。
その少女の表情は先ほど変わって目を見開いている。
「お嬢ちゃん。お母さんはいるのかい?」
「……これは、どういうこと?」
少女の一言目は先ほどと違った。
「何がだい?」
「おじさんの花能?」
「かのう?なんだそれ?」
「知らないの?じゃあ……あっちかな?おじさんは……もういいや」
何も分からない男の首へナイフを突き刺す。
少女はこちらを向く。
「おにいさんは、分かる?」
なぜ同じように窮地に立たされねばならないのか。
しかしそれでも俺は唯一の共有者の声に答える。
「繰り返してる……ことか?」
「そう、おにいさんの花能?」
「その……かのうっていうのは、なんだ?」
少女は一言「ついてきて」と言った。
とりあえず殺されることは回避できたため少し安心したが。
この危険極まりない少女について行かないといけない。
とにかく少女のあとについて行くと、植物で組まれた住居らしきものにたどり着いた。
その中へ入るとこの家?と同じように植物で組まれたベッドと壁?に掛けられた無数のナイフがある。
少女がベッドへ誘導したため、ベッドへ腰を下ろすと俺の隣に少女が座った。
「花能っていうのは、ここに来る犯罪者が注射された薬。あれはこの島の花の蜜から出来ているのは知ってる?」
「ああ。有名だからね。それを注射されると特別な力を手に入れられる……」
「そう。私たちはその力を花の蜜で得られる力、不可能を可能にする力として。
「そうなのか。でも俺は自分の花能が何なのか知らないんだけど。ちなみに君は?」
少女はコテンと首を傾げて、そうかと手をたたいた。
「わたしの花能の前に名前も教えてなかった……。わたしはシャルロット・リヴィエラ。シャルって呼んで。花能は『触れた相手の花能の影響を受けない』。特技は知ってると思うけどナイフの扱い。……次はおにいさんのこと教えて」
「俺は、復水 蒼汰。花能は分からないけど、特技も……特にない」
「……フクミソータ?」
「蒼汰でいいよ」
「ソータの花能は……死んだら使えるものかも」
「死んだらって……」
死んだら痛みも忘れられるならいいかもしれない。
でも俺はこの少女に首を斬られた瞬間もその時の痛みも覚えている。
今ですらナイフに囲まれた部屋で自分を殺した相手の隣にいなくてはいけない現状に怯えてすらいる。
それなのに俺の花能が死んだら使える?
しかも試すなら、もう一度死ぬしかない?
もし見当違いだったら死んだら終わりなのに。
「……死んでみる?」
「――いや、やめておくよ」
シャルが静かにナイフを取り出す。
恐怖を押し殺して出した言葉にシャルはナイフをしまった。
「ちなみに島にどれぐらいの人がいるか分かる?」
「たぶん……3000人くらい?……1番最初に島へ来た凶悪犯罪者たちはずっといるよ」
そうだろう。
最初に送られたのは各国で選ばれた最悪の犯罪者であり。
常人とは思えないスキルを持っている。
そんな人間が花能を手に入れれば殺すなんて不可能だろう。
その上で3000人が島で殺し合いをしているのか。
「……ヘリが来たときは武器か食料の補給か、新人犯罪者だから。……だから炎が飛んで来たんだよ」
武器か食料なら早いもの勝ち。
犯罪者であれば腕試しや殺しを楽しむために。
あの炎にはそんな意味があったのだろう。
よく生きて島までたどり着いたな、俺。
シャルが急に立ち上がった。
「っ!どうしたの!?」
「……狼」
狼!?
この島が特殊な生態系で構築されてるのはニュースでもやっていたから知っている。
でも狼なんてどこから来たのか。
混乱する俺を余所にシャルは住居を出る。
近くに狼がいる状況の中、一人でいるよりもシャルと共にいたほうが安心できるだろうとついていく。
シャルが止まったのは、細い男が殴り殺されガタイの良い男が切り殺された場所。
何か獣臭を感じながらシャルに近づくと。
そこには男たちの遺体に群がり、それを貪る狼たちがいた。
見たところ数は7体程度。
しかし驚いたのは、その数にでは無い。
狼たちの頭には黒い角が生えている。
黒い体に金色の眼球が目立つ。
シャルは静かにナイフを抜くと。
一番近い狼へ切りかかった。
狼は突然の襲撃に驚きながらシャルを取り囲む。
シャルは狼を切り、蹴り、殴りながら制圧していく。
その動きは少女の筋力で出来るものではない。
それでもシャルの花能でもなく、素の身体能力なのだろう。
狼を制圧したシャルがこちらを向いた瞬間。
「ソータ!」
シャルは走り出した。
なぜこちらに走り出しているのか。
何か焦っているが、分からない俺は立ち尽くす。
”それ”に気づいたのは背中に強い衝撃を感じた瞬間だった。
……後ろにも狼がいたのか
その狼は明確に俺の首に噛みついていて死は免れない。
シャルは瞬時に狼の首を落とし俺の手を握る。
俺の花能が何であれ、こんな可愛い子に見送られるなら悪くないな。
中身殺人鬼だけど……。
くだらないことを考えながら意識が遠のいて行った。
体に当たる風を感じながら目を開けると、目の前にはシャルがいる。
「は?」
「……やっぱり、そうだった」
周りには森が広がり、見渡すと茂みの先には二人の男の遺体。
状況から考えると、あの住居に行く前。
シャルが男を殺して俺に対して声をかけてきたときの場所。
俺が状況を把握したことをシャルは理解したのか立ち上がる。
二人で住居へ戻る。
「……ソータの花能は『死んだら1時間過去に戻ってやり直す』だと思う」
シャルが言うには俺がシャルに切られたとき、狼にかみ殺されたとき。
シャルの花能『触れた相手の花能の影響を受けない』により、過去に戻ることによる記憶消去をかき消した。
そうして起きたとき自分が約1時間前の場所に戻っていることに気づいた。
今回はシャルが男へ話しかける寸前に戻り、男が寝ている自分を襲おうとしていたため殺し、蒼汰のもとへ来たということだった。
「……私が知っている限りこんな花能を持っている人いない。……ソータは実質不死身になってる?」
「い、いや。死ぬことに変わりないし。痛いのも覚えてるから不死身では無い」
「……そう?」
こうして死んでも過去に戻って生き返る俺、復水 蒼汰と。
触れた相手の花能の影響を受けない殺人鬼、シャルロット・リヴィエラ。
楽園島という逃げ場のない孤島。
そこでの殺し合いサバイバルが始まった。
復水 蒼汰
出身国:日本
犯罪歴:複数回の万引き・テロ組織メンバー逃走の手助け
花能:死ぬことで1時間過去へ戻る
容姿:黒髪黒目の標準体型。中学、高校とバスケをしていたことで体力がある。
総合脅威:レベル1
総合脅威は個人の強さ、技術力の高さ、花能の強さ、犯罪歴を総合的に評価した強さです。
最低レベル1から最高レベル5でつきます。
次の更新予定
楽園島 超山熊 @koeyamakuma
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