エピローグ スマホ・ホリデー
「璃空くん、いってらっしゃい。気をつけてね」
「うん。望夢も遊びに行く時気をつけてな」
「ありがとう」
「行ってきます」
家を出ていく旦那さんを見送る私の名前は
専業主婦で4歳の子供を育てていて、お腹には新しい命も宿っている。妊娠5ヶ月で最近は調子もよく高校時代の友人たちと都合が合う日があったから遊びに行くことになった。それがまさに今日でこの後お義母さんが来てうちで長女の面倒をみてくれることになっている。
「結愛、おもちゃ広げすぎだよ」
居間に戻ると娘の結愛が広げたおもちゃを手に取り結愛の方に持っていく。
「はーい、ごめんなさい」
そう言う結愛はこちらを見る目元が特にお父さんにそっくり。
私は高校時代から付き合っていた三上璃空くんと大学を卒業してすぐに結婚した。
それから就職して、子供もできて……。
忙しいけど充実した毎日を送れていると思う。
ピンポーン
鳴ったチャイムの音に慌てて立ち上がり玄関の方に行く。
「こんにちは」
扉を開くとお義母さんがいる。
近所に住んでいるのもあってよく面倒を見にきてくれる。元保育士さんなのもあって娘の面倒を見るのが上手くて参考にさせてもらうことも多い。
「こんにちは。今日はありがとうございます」
「いいのよ。たまには息抜きしないと。それにね、この歳になると特にだけど友達とは会える時に会った方がいいわよ」
「ありがとうございます。そうですね、できるだけ会って話したいなと思ってて……。今日も楽しんできます」
「そうしてね」
嬉しそうにそう言うと居間の方に向かう。
「結愛ちゃーん、おばあちゃんだよー」
明るく楽しげな声。すぐ結愛はおばあちゃんに飛びつく。
「ばあば! 見て、これ。結愛が作ったの」
早速おもちゃの自慢が始まっている。
改まって私が出かけることを知ると結愛は泣いちゃうからいつもこういう時はさり気なく家を出ていくようにしてる。
用意していた荷物をとってお義母さんに改めて心の中でお礼を言ってから玄関に向かう。
普段は少しくたびれてきているこのスニーカーを履くけど、今日はオシャレなこっちの靴にしよう。
立ち上がり姿見を見る。
よし、大丈夫。
そう思った時にお義母さんが現れる。
「どうかしましたか?」
その手には私のスマホが握られている。
「これ忘れてってるわよ」
小声でそう言ってくれるお母さんに笑顔を返す。
「ありがとうございます。今日はあえてスマホを置いて出かけようと思ってて」
「あら、そうなの」
言葉にはしなくても変わっていると思われていそう。でも、それでもいい。
「じゃあ、ありがとうございます。いってきます」
そう言うとお義母さんは微笑んでくれる。
「ええ、楽しんできてね。いってらっしゃい」
そんな声を受けて私は家を出た。
待ち合わせ場所は地元の駅近くにある時計台。
11時集合のところを楽しみで早く出たのもあって10時40分に待ち合わせ場所に着いた。
早く着きすぎちゃったなあ。
腕時計はしてきているからそれも見て考える。
すこし近くをブラブラしてようかな。
「あっ! 望夢ちゃーん!」
そんな声にすぐ気づく。この声、森ちゃんだ。懐かしい。でも、その人を見て驚く。
見た目が私の知っている森ちゃんと全然違う。
大体森ちゃんと会えたのは2年振りくらいだから変わっていてもおかしくないんだけど、学生時代から大学時代、社会人になってからも維持し続けていた腰まで届きそうな髪の毛がバッサリと切られている。
服装は学生の頃から変わらず、推しである朝日アケミさんっぽいスタイリッシュでかっこよく自身の体型を活かしているもの。
「森ちゃん、髪の毛結構切ったんだね。ずっとロングだったからすごい見慣れない感じがする」
「ああ、そうなの。……クズ男と決別できたからついでにバッサリいっちゃった」
明るく笑いながら言う。その声音的に完全にもう吹っ切れているみたい。
「そうだったんだ……。短いのもすごく似合ってるよ!」
「ありがとう。嬉しい。望夢ちゃんは体調大丈夫? 落ち着いてるの? 今何ヶ月なんだっけ」
「今、5ヶ月。最近は体調落ち着いてるし大丈夫だよ。ありがとう。2人目だから少し慣れてるのもあるし」
「そっか~。すごいなあ、望夢ちゃん」
「そんなことないよ」
そうやって話していたら不意に人が現れる。
「お久~」
れいちゃんだ。昔と雰囲気も髪型も変わらなくてどこか安心する。
カバンからチャック付きのグミを取り出すと自身の口にそれを何個か放り、私たちの方にも「お食べ」と差し出してくる。パッケージには大きくいちごの絵が書かれていて超いちご味と書かれているのが目にはいる。
「これめっちゃ美味いよ」
「じゃあ」
なんて言って私も森ちゃんもそれを貰う。
「すごい! いちごの味がちゃんとする」
グミのいちご味でこんなにいちご感じたことない。口の中に広がる甘酸っぱいいちごの味に思わず笑顔になる。
「美味しい~」
森ちゃんも嬉しそうに食べる。
「でしょう?」
ドヤ顔でそう言ったあと不意に視線を私の後ろにやる。
「おっ、恵来たよ」
振り返るとめぐちゃんがいた。
駆け寄ってきて私の背中に手を当てる。
「体調は? 大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「そう、なら良かった」
短くそんな会話を交わすと改めて輪に入り「久しぶり」と言う。
めぐちゃんとは住んでいる家は離れちゃったけど定期的に会ってる。よく家に遊びにもきてくれて結愛とも仲良し。めぐちゃんは双子の妹さんと弟さんがいるから本当に年下の子の面倒を見るのが上手だなあと思う。
そういえば、その双子の妹さんと弟さんは今年で17歳で、私たちの通っていた高校に通っているらしい。なんかエモいなあとか、もうそんなに自分は年とったのかあ、自覚ないなあなんて思う。
めぐちゃんは大学時代から髪の毛を伸ばしたり短くしたり、割と会う度に印象が変わる。変わらず演劇塾に通っているけどその役に近い髪型にできるだけしたいみたい。
今は肩につくくらいの長さになっている。
元々美容系に興味が強くて学生の頃も詳しかったけど今はより化粧品について詳しくなっていてメイクがすごく上手。
「ねえ、恵ちゃんが今日使ってるリップどこの? すごく可愛い」
森ちゃんが尋ねるとめぐちゃんはバックに手を入れリップを取りだして見せる。
「これ。リルリルの新作のジューシーラブティントの09番、紅染るってやつだよ」
「うわ! それ気になってたんだよねー。発色すごい良さそうじゃん」
れいちゃんがグミを食べながらそう言うとめぐちゃんは呆れた目をする。
「あんたは相変わらずね……。そういえば例のイタリアン彼氏とはどうなったの?」
「ああ。あれね、1ヶ月で別れた。もう私は一生独身貫きます!」
グミの袋を掲げて突然宣言するれいちゃん。
20代前半の時は恋活だ!婚活だ!ってマッチングアプリや街コンなど積極的に活動していたれいちゃんだけど『付き合えてもいつも半年もいかずに別れる』『私の何が悪いの』と前に愚痴をこぼしていたことを思い出す。
25歳を超えてからは結婚相談所に登録して頑張っててと本人からもめぐちゃんからも聞いていた。
「あのねえ、わかったのよ。私、他人と一緒にいられないタイプ。いや、家族とか友達とはいられるんだけどさあ、多分恋愛が向いてないんだわ」
そんな言葉に森ちゃんが同意するようにうんうんと頷いてる。
「森ちゃんもなんかあったの?」
めぐちゃんが尋ねると森ちゃんは遠い目をする。
グズ男がどうの……って話してくれてたけど、森ちゃんは包容力が高くて癒し系なのもあってか一般的にダメ男といわれる人との縁が多いみたい。頼りなかったり依存的な人か高圧的で下に見るような扱いをする人かの両極端な二択で疲れているってことは前に会った時にも少し聞いている。
「うん。……色々、ね」
それかられいちゃんの手をとる。
「私も恋愛向いてないし一生独身って思ってたの」
「おおっ! じゃあうちら仲間じゃん! よし、独身同盟結成じゃあ」
「おー!」
「ふざけたノリ……」
呆れた声だけど表情は柔らかく笑みが宿っているめぐちゃん。
みんなのやり取りを見てるだけで心がポカポカしてくる。
でも、自分の立場上、下手に発言して2人を傷つけたりしないようにしなきゃなと思う。
結婚して子供がいるってだけで嫌な思いをさせてるかもだし……。
「みんなー! 待たせてごめんよー!」
大きな声が響いてきた方を見ればこちらに向かって大きく手を振る紗莉がいる。
学生時代とは違って金色に染まった髪の毛をひとつに縛っている。
その後ろからは言乃が現れる。
昔と変わらない、むしろより洗練されたメンズライクな服装に髪型。
遠目に見るとかっこいい男の子に見える。
こちらに寄ってくると紗莉が笑顔で口を開く。
「ごめんね~。言乃が大きい方しててさ」
「おまっ! 言うなよな!」
「ごめん~」
そんなやり取りを見て相変わらずだなあと思っていたられいちゃんがそのまま「相変わらずだなあ」と言う。
でも、相変わらずに見えても2人には大きく変わったことがある。
「あっ、あとあと、ご報告なんですが~」
紗莉がニヤニヤしながら自分の左手を見せる。その薬指には綺麗に光る指輪がはめられている。
「私たち、結婚しましたー!」
言乃は恥ずかしそうにそっぽを向きながら、紗莉に促されて左手を見せる。
紗莉とお揃いの指輪が薬指で光っているのを見て微笑ましくなる。
みんな自然と拍手したり「おめでとう」と声をかける。
「まあ、とはいっても、男女の恋愛とは違ってパートナーシップ宣誓ってやつなんだけどさ」
少し悲しそうにそう言うけどすぐに笑顔も見せる紗莉。
「でもうちら的にはなんの問題もなく結婚!なのです!」
「良かったね」
嬉しさで胸がいっぱいになってきて涙がこぼれそうになる。
紗莉からはよく恋愛相談を受けていたから。
紗莉と言乃は高校卒業後、大学時代ルームシェアをしていて、そこでさらに絆も深まり、大学卒業と同時に言乃から「紗莉がいない人生は考えられない」とプロポーズされたと聞いてる。それからお互いの親の説得とか仕事が落ち着いた今年に結婚するという話は聞いていたけど改めて指輪をつけた2人の姿を見ると涙腺が緩んでくる。
「のんー、ありがとう」
紗莉はこちらに寄ってきて柔らかくハグすると
「体調は? 大丈夫?」
と聞いてくれる。
「うん、平気だよ。ありがとう」
「良かったー。ねえねえ、もうお名前は決まってるの?」
「名前はまだだよ。でも男の子みたいで、璃空くんと色々名前の候補を話し出してるところなんだ」
「ええー、素敵! 決まったら教えて! あとまた結愛ちゃんに会いたい!」
はしゃいでそう言ってくれる紗莉に嬉しくなる。
「うん、今度遊んであげて」
「じゃあ、全員揃ったし移動しよ」
めぐちゃんはそう言ってから辺りを見回す。
「顔採用カフェまだありそう。あそこ行こ」
「おっ! いいねえ! 懐かしい」
はしゃぐ紗莉の横で少し冷めた目をする言乃。
「言乃、国語の前田のこともそうだけどあそこのカフェの店員のこともかっこいいってキューキャーしてたよね。僕のこと本当にその頃から好きだったのかね」
「もー! 何言ってるの! 好きに決まってるよお! 前も話したけどそっちはアイドルとか推し的なやつなの。言乃は唯一無二なの! それにあの時は言乃のこと好きって気持ち絶対バレたくなくて誤魔化す為にも騒いでたとこあるし」
「ふーん」
「ヤキモチ妬いてるところも可愛い」
言乃にべったりくっつく紗莉。
その2人を切り離すようにれいちゃんが間に入る。
「どけ、リア充。腹が減った。急ぐぞ」
ふざけた口調でそう言ってひと足早くカフェに向かうれいちゃん。
それにすぐのっかり「あいあいさー!」と言ってついていく紗莉。
みんな見た目も中身も変わったところが沢山あるのに、どれだけ時間が経っても変わらない、安心感を感じる。みんなと会ってると母親である今の自分から一時的に離れて、17歳の頃の自分に戻ってるみたいな気持ちになる。
カフェに入ると流石に顔見知りの店員さんはいなかったけど変わらず顔採用と思われるような容姿の整った大学生くらいの子たちが接客してくれる。
「え! ねえ、羊羹あるよ! よかったね、言乃」
「本当だ。じゃあ、僕、羊羹とコーヒーにする」
そう言う言乃は昔のミニスタ映えを気にしていた頃の面影が一切ない。
映えを気にせず好きなものを頼んでいる。
「ちょっと、みんな聞いてー。最近、言乃の老人化がすごくてさあ、緑茶とかほうじ茶とか茶葉を厳選して買ってくるし、急須まで買ってきたんだけどどう思う?」
紗莉のその言葉に私はすぐに言葉を返す。
「素敵だと思う! 私もお茶好きだからオススメがあれば聞きたいな」
「そうなんだ。いいよ。今度SINEで送るよ。今はスマホ持ってないし」
「そういえばそうだね。今日はみんなでスマホなしデートの日だもんね」
れいちゃんの言葉にみんな頷く。
そう、今日はみんなであえてスマホを持たずに遊ぶことにしてる。
高校2年生の時にみんなで夏休み中SNS断ちする為にスマホを手放した時があるんだけど、その時みたいに集中してみんなと過ごす時間を楽しみたいからってことで今日は置いてくることになった。
大人になった今も、スマホがあれば『この写真みて』とか『この芸能人が』とみんなでスマホ画面を見ることが多くなると思うしそれが別段悪い事だとは思ってない。
でも、その時間も、大切な時間でその時を使ってみんなの顔を見て話して楽しい時をすごしたい、そう思う。
私はそう思うけど一人一人の詳しい想いは違うと思う。
でもここにこうやって集えて、スマホを置いてきた。ただ、それだけが答えだ。
「私さ、今度逆プロポーズしようと思うんだよね」
みんなの注文したものが届いたところでめぐちゃんが口を開く。
めぐちゃんには高校時代から付き合っている
でも逆プロポーズの話はまだ聞いていなかったから驚く。めぐちゃんらしいといえばらしいけど……。
「なかなか思い切ったね」
言乃がそう言うとすぐにめぐちゃんが食いつく。
「言乃はプロポーズ経験済だよね? どうやってやったのか詳しく教えてくれない?」
そういうめぐちゃんの目に宿る光はちょっと意地悪的なものも混じっていると幼馴染だからこそわかる。からかうというか、そういう色が見える。
言乃はなんともいえない顔をして一瞬黙るけど結局答える。
「……初めてキスした公園のベンチでしたよ。あと曲も作って贈った。そのベンチでイヤホンして2人で聞いた……」
「うんうん、それでそれで?」
関係ないはずのれいちゃんが身を乗り出して聞くと言乃は邪険そうな顔をする。
「その顔やめろ」
「言えないなら私が言おうか?」
紗莉の言葉にすぐ「紗莉は黙ってて!」と言うと一旦コーヒーを飲んでから口を開く。
「『紗莉がいない人生なんて考えられません。どうか僕と一生一緒にいてください』って言ったよ。あと指輪は紗莉の好きなブランドのやつ。寝てる間に指のサイズ測って買ってきた」
「素敵だねえ」
「ねえ」
キラキラした目をする森ちゃんとれいちゃんを見て言乃は耳を赤くさせる。
「もういい?」
「いや、まだ聞きたいな。言乃さんは紗莉のどんなところが結婚の決め手になったんですか?」
飲んでいたアイスコーヒーをマイクのように言乃の方中向けるれいちゃん。
「……僕と真正面から向き合ってくれるところ」
そう答えた直後また森ちゃんとれいちゃんがひゅー!と騒ぐ。
「……僕、もう帰ってもいい?」
「えー! ダメだよー!」
紗莉に止められて少し不貞腐れた顔で羊羹を切り分け始める。
「ありがとう、言乃。参考にさせてもらう」
めぐちゃんはそう言って手帳にメモをとる。
「……私の彼氏、本当に奥手でさ……。やんなるわ」
「でもだからこそ引っ張る系の恵と気が合うんじゃないの?」
れいちゃんの指摘にめぐちゃんは不服そうにしながらも頷く。
「そうだけどさ」
それからみんなで色々な話をした。
欠かせない恋愛の話から芸能人の最近のゴシップ、地元の店が潰れたとか、高校時代の先生の話とか、人生についてや歳をとったとかんじる瞬間、自分の親が歳をとったと感じることへの切なさとか、仕事や家事についての話。
高校時代と比較すると大分違う話題を沢山話した。
やっぱり年齢を重ねると話題も変わるものなんだなと改めて思った。
楽しくて話してるうちに15時になっていて、そこから近くのゲームセンターに移動してみんなでプリクラを撮ったりウィンドウショッピングしたりクレープを食べて夜は私のオススメの居酒屋さんに向かう。
私自身は妊娠中でお酒は飲めないけど、ここの担々麺がすごく好きで、私に遠慮するみんなを若干強引に連れてきた。
あと、担々麺だけじゃなくてもっと長くみんなと一緒にいたいなと思ったから。
私はそれなりにお酒は強い方で、紗莉も同じくらい。森ちゃんがいちばん強くて、全然飲めないのがれいちゃん、すぐ酔うし酔った時にいつもと違う雰囲気になるのが言乃とめぐちゃんっていうのが、私の記憶。
みんなでお酒を飲んだのは成人してすぐの時の一度だけだと思う。みんなで集まれたのは何回かあるはずなんだけど、なんでお酒を飲まなかったのか。何か理由があったはずだけど忘れてしまった。
でも、改めてみんなが飲み始めて気づいた。
想定以上に場がカオスになるからできるだけ飲まないどこうって話していたことを……。
森ちゃんは特に居酒屋は……って反応をしてたのは単なる遠慮でさなく、こうなるのが予測できてたからか。
「らいらいさあ、あいつはなんなのよ、ほんとに! 私のこと好きならとっととプロポーズしてこいよお!」
ビールの入っているジョッキをダンッとテーブルにうちつけるように置くめぐちゃんに慌てる。
「めぐちゃん、落ち着こう」
思った以上にめぐちゃんが酔ってる。というか、彼氏さんへの想いが爆発しかけている。
「紗莉も紗莉でさあ、アイドルだからとか変な線引きして他のやつに可愛いとかかっこいいって言うのやめろよなあ」
言乃は若干体をフラフラさせながらすわった目で私の方を見てくる。
「なんで私? 紗莉はそこだよ」
「ヤキモチ妬いてる言乃も可愛い! 目に焼き付けなきゃ」
「……色々とカオスだね」
「ほんとに」
森ちゃんと呆れた顔をして笑い合う。
「言乃はうちらのことどう思ってんだよー」
言乃とめぐちゃん程ではないものの十分酔っているように見えるれいちゃんがそう言うと言乃は「ああ?」と返してから急に立ち上がる。
「一生の友達だと思ってるに決まってんだろお!」
「永遠の友情、乾杯」
それに答えるのは真っ赤なめぐちゃん。
「絶対そういうこと言いたがらない2人が言ってる……! おもしろーい」
紗莉がキャッキャと笑うと言乃が紗莉の方を向いて座りその頬を片手でむんずと掴む。そのまま自身の顔を近づけキスし始める。
「ちょっ、ええ」
戸惑う森ちゃん。
「もっとやれー!」
「私だって耀平にそれくらいされたい……」
野次を飛ばすれいちゃんと泣き出すめぐちゃん。
……みんなでお酒を飲むのはまた5年後……ううん、10年後くらいでいいかも……。
みんなと解散して1人で家に帰る。
最後は色々と大変だったけど楽しかったな。
また今度はいつみんなで集まれるだろう。
その時が今から楽しみだな。
ポカポカと胸の内があたたかいのを感じる。
ここのところイライラして結愛に対して強く言ってしまうこともあって自己嫌悪になって、SNSでは私よりすごいお母さんが沢山いて、つい比べちゃってたなと気づく。
頭では比べても意味がない。自分は自分と分かっていても気づくとなってしまう。
でも、こうやってスマホを置いて友達と楽しい時間を過ごしたり自分と向き合う時間がとれればまた違うのかもしれない。
高2の夏休みにSNS断ちしてからたまにこうやってスマホから距離をとることがある。
今の時代は溢れるくらいに、人の一生じゃ多分追い切れないくらいに無数の情報が、簡単に手にはいるところにある。
それにSNSがない時には見えなかった人の心の裏側も知ることになる。
ネットにはこうすべき、ああすべき、普通は、そんな基準で測られた正義があちこちで火を灯している。
何が正しいとか、間違っているとか、疲れているとスマホにばかり頼って誰かの何かの価値観に気づかないうちに飲み込まれてしまう。
でも、本当はそれは良くないことで、何が正しくて何が間違っているかの基準はいつでも自分の中にある。
それは人と違うものかもしれない。
でも、揺るがせちゃダメなんだ。
普通はこうするべきだから、に今は囚われやすい時代だなってことに私はスマホと離れる習慣がついて気づいたから。
誰か一人の、どれだけ有名で憧れる人の発信でも、その人の情報や意見だけで何かを決めてしまわないこと。
自分の気持ちを聞くこと。
そうやってまた明日も明後日も過ごしていく。
忙しくて見えなくなる気持ちも必ず拾いにいく時をつくる。
スマホがあってもなくても私たちの本質はきっと変わらない。スマホがあると見えなくなるものがでてくるだけ。
だから、ちゃんと見てあげるんだ。
よし。明日からも頑張ろう。
気合いをいれて帰路を歩く。
スマホがあると手元の方に目が行くけど、今日は自然と目線が上に上がる。
綺麗な三日月。星もいくつか見える。あれはなんていう名前の星なんだろう。
そう思って眺めてたら不意に光が空を駆ける。
「流れ星!」
つい声を上げたら近くを歩いていた高校生の女の子が立ち止まり、手にしていたスマホから顔を上げて同じように空を見る。
「本当だ……」
「あっ、ごめんね。急に声上げて……」
「いえ。流れ星、綺麗でしたね。おかげで私も見れました」
そう言うと会釈してスマホを見ながら去っていく女の子。
恥ずかしいけど良かった……のかな。
女の子の進んでいった方向に背を向け改めて帰路に着く。
流れ星はもう流れないけど、星空を見上げて歩くだけですごく気持ちが良かった。
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